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第38話 緊張感

 王城の中も広い。

 城は3階建てで、一階は主に近衛兵や従者の執務室がメイン。

 あ、兵士用の食堂なんかもある。

 二階は宰相や大臣などの上級従者や王の居室となっている。

 王の居室は城の中心にあり、渦巻き状に伸びている通路の終点となっている。

 これも安全面への配慮だ。

 三階は謁見の間がメインで、隣に王の執務室がある。

 お父様は日中、おもに三階で過ごされる。


 上級従者というのは、日本でいう内閣と似ている。

 自分のお気に入りを大臣として任命し、自分のすぐ近くに住まわせる。

 宰相はその長である。

 王政である以上、王の言葉は絶対だ。

 ここ、サリューム王国は新興国家であるため、それほど歴史はない。

 だから、政治の進め方も手探りの場合が多いそうだ。

 

 と、フランソワが今、教えてくれた。

 僕はぼーっと聞いていただけだ。


 今は、王城に入り、一階の雑多な通路を抜け、二階に上がろうかというところ。

 二階への階段へたどり着いたら、三階へはすぐに行ける。

 あくまで、王の居室が狙われないように、渦巻き状の通路としているのだろう。

 三階には近衛兵の詰め所もあるから三階に賊が出た場合はすぐに対処できる。

 

「それで、アーサー、あなたはどうするのですか?」

「どうとは?」

「派閥の話は聞いたのでしょ? あなたが剣聖と結婚すると言い出したときに一番恐れていたことが今から起こります。あなたは妻である剣聖を守るのか? もう一人の妻である賢者を守るのか? 父であるシャルム様を守るのか? それとも、育ててもらったフランソワを守るのか?」


 うわー。

 フランソワが育てたことになってる。

 母としての自覚は無いのか……。

 王族としてはこれが当たり前なのかな?

 悲しいけど、仕方ないね。


 それにしても、この選択しはどれも選べないな。

 強いていうなら「お父様以外は全員助けたい」が本音かな。

 でも、それを言ったら怒られるだろうな。


「全員です」

 ドヤって顔で言ってやった。

「それは無謀ですね」

 切って捨てられた。

 じゃあ、正解は何よ?


「それではどうすればいいのですか?」

「わかりません。しかし、今も見たでしょう? 城内には動けない兵がたくさんいます。この場が戦場になれば大混戦になることは間違いないでしょう」

 だよね?

 だから来たくなかったんだよ。

 でも、来るって言ったのはフランソワとお母様だよ?


「正直な話をすると、まずは、フランソワを守りたいです。一番身近な人間なので、お父様には近衛兵がいるから大丈夫だと信じています。あと、ガーベラとサルビアも強いので自力で生き残ってくれると信じています」

 あとは、ガーベラVSサルビアだけは避けたいな。

 宰相は知らん。

 ほかの勢力も知らん。

 勝手に死んどけ。


「三階につきましたね」

 案内の兵士が声をかけてきた。

「そうですね。お父様はどちらに?」

「今は執務室です。そちらへご案内いたします」

「誰がいるかはご存じですか?」

「宰相閣下はいらっしゃいました。ほかはわかりませんね」

「そうですか」


 兵士はいつも通りノックして大声で呼びかける。

 すると、はいれ、と中から声がした。

 いつもより覇気のない声だ。

 もう、状況は把握してるのかな?


「失礼します。お父様、お忙しいところすいません」

「いや、待っていたんだ。フランソワも狙われているのか?」

「はい。確かなスジからの情報です」

 後々もめそうだからラムダン子爵の名前は出さないでおこう。

 向こうからこっちの名前が出ないようにはしたしな。


「そうか、お前も情報網を持つようになったか。成長したな」

 いや、そんないいものではないけどね。

 あ、でも、これから、ラムダン子爵は情報屋として利用できるな。

 あいつ、詳しかったもんな。

 毎回『催眠術』で吐かせて僕のことは黙らせよう。

 いいアイデアだ。


「いえ、それほどでもないです。しかし、待っていたというのは?」

「まずは、フランソワを保護したかったのが第一だ。第二に、戦力としてだ。お前は冒険者としても活躍し『勇者』のスキルも発現させている。それに、サイト殿もおられるなら、百人力よ」


「がんばりますけど、期待はしないでくださいね。まだスキルは発現したばかりでレベル1です。サイト様もそれほど時間がなかったので、そこまでレベルは上げられていません」


「そうか、やはり厳しいか。剣聖はなんとか国家戦力として捕まえることができたのだが、賢者がいないんだよ」

 やはり、サルビアは敵勢力へ吸収されたかな?


「そうですね。僕も一度家には帰ったのですが、出かけていたようです。ひょっとしたら、アウグスト公爵の手の者に連れていかれた可能性はあると思います。ただし、彼女自体がかなり強いので、無理やりは不可能かと」


「そうだな。私もそう考えている。なんらかの交換条件などで連れていかれた可能性が高いだろうな。今なら『貴族に戻れる』と言われれば飛びつくんじゃないか?」

「そうですね。彼女も婚約にあたって自分の身分は気にしているでしょうし。しかし、ご両親はそこまで貴族にはこだわっていない様子でしたよ?」

 なんだったら男爵より子爵の執事の方が儲かるって言ってたし。

 セージ家の人間はそこまで頭も回っていない気がする。


 そんなときに扉にノックの音がした。

「失礼します。アーサー様に会いたいとガーベラ様がおいでです。よろしいでしょうか」

「通せ」

「はっ」

「アーサー、城へ来たのですね。これからここは戦場になりますよ? 大丈夫ですか?」

「ガーベラが暴走せずに僕を守ってくれれば大丈夫です」

 ガーベラの顔が真っ赤に染まる。


「もう! こんな緊急事態に冗談はやめてください!」

 しゃべりながらも真っ赤だった。

「ガーベラはダンジョンでは暴走しますからね。この前みたいに放っていかないでくださいよ?」

 さらにからかってやった。

 この場は僕の身内ばかりなので、冗談の一つでも言える。

 内弁慶の極みだ。


 ガーベラを案内してきた近衛兵にお父様は指示をだした。

「さあ、関係者を呼んで来い。今後について打合せをする。この場にいる皆も出席してほしい」

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