第35話 カラ回り
「ああ、そのことですか。それは、我々の派閥の動きですね。どうか、邪魔をされないようにしてください」
「え? 毒を撒いてるってことですか?」
いきなりのラムダン子爵の告白にドキリとする。
完全にテロリストじゃねーか。
でも、これで、やっと関係者に会えた。
「アイリス、誰も来ないか見張っておいてくれ。盾の装備を忘れるな」
「承知しました」
アイリスは応接室から出ていき、入り口前で待機しているはずだ。
ここからはアイリスにも見られたくない。
前のパンツを見せてもらったことを思い出させてしまうからだ。
『ピュア』『催眠術』「この事件にまつわる話を全て聞かせてください」
「そうですね。殿下には聞いていただきたいですね。我々の派閥について……。」
こうして、ことの顛末を聞かされた。
どうやら、派閥は王が率いる宰相派閥と、剣聖が率いるストライク侯爵派閥、賢者が率いるアウグスト公爵派閥があるらしい。
その派閥が覇権を常に奪い合うことで、政治が回っているそうだ。
現在はストライク侯爵が勇者を召喚したにも関わらず、王の手柄とするべく宰相派閥が手を回し、勇者を王妃の元に送り届けた。
しかし、それをおもしろく思わなかったストライク派閥が、娘がいることを知らずに刺客を送ってしまい、返り討ちにあった。
そして、代わりにスキをついてセージ家を没落させたらしい。
そして、アウグスト公爵はそれに怒り、剣聖への刺客を送った。
しかし、これまた、賢者もその場にいたことで、何の意味もなかった。
平行して、城内に毒を盛り、動きを鈍くしたところで暗殺し放題という状況をつくったそうだ。
で、今ココってとこだな。
これからは、宰相の暗殺を計画していて、それを実行に移すのが今晩だと。
うーん。
どいつもこいつもロクなことしないな。
と、いうか、どの派閥にも見事にツバをつけてて笑えてくる。
『ピュア』『催眠術』「で? 勇者の婚約者であるフランソワも暗殺対象というのはなんでだ?」
「それは、悪魔召喚をしてしまい、大きな災いを招いたとされるポーター大公の娘だからです」
え?
なんて?
そういえば、フランソワの家名は聞いたことなかったな。
僕はってきりフラ・ンソワだと思っていたのだろうか?
そうか、フランソワ・ポーターがフルネームだったんだ。
あまりに幼少期からいると、そういう背景に興味を持たなかったな。
『ピュア』『催眠術』「それで? なんで、お母様のところにそのポーター大公の娘がいるんだよ? それこそ国家反逆罪じゃないのか?」
「それは、陛下が内密にイザベラ様のメイドというポジションをあてがったからです。それに気づいたのがアウグスト公爵です」
なるほどね。
それで、フランソワを殺してしまえば、勇者の元気がなくなるから、宰相派も、ストライク派も力を失うのか。
とりあえず分かったのは、全員クズで、誰が死んでも僕には関係ない。
でも、フランソワだけは守ろう。
お世話になったしね。
お母様より母親らしいことをしている人だ。
恩を返そうではないか。
宰相のことは知らん。
勝手にそっちでやってくれ。
僕は何も聞かなかった。
『ピュア』『催眠術』「ここであったことは他言無用だ。僕は何も聞いていないことにする。いいな?」
「はい。承知しました。アウグスト様にも黙っておきます」
よし。
口止めOK。
あとはフランソワだけ守って静観しよう。
僕はラムダン邸をあとにした。
まずは、どんな刺客が来てもいいように、戦力を集める必要があるな。
王城は宰相の暗殺をしゃべるとめんどくさくなりそうだから内緒だ。
最悪、お父様が暗殺される恐れもあるけど、なんとかなるだろ。
一緒にいた時間ではフランソワの方が長いし、世話になった。
比べるわけじゃないけど、仕方ないと割り切ろう。
集めるのはいつものメンバーでいいな。
アーサー一家が集まれば何とかなるだろ。
そのためにはストライク家からもう一度ガーベラを連れてくる必要があるな。
ストライク家へ行こう。
ドンドンドン
「すいません。アーサーです。何度も申し訳ないのですが、ガーベラさんはおられますか?」
執事と思われる男性が出てきた。
「こんにちは、アーサー様。先ほどは送り届けていただき、ありがとうございました。ガーベラ様は先ほど宰相様よりの使いと一緒に城へ行かれました」
ああ、先を越されたか。
自分の暗殺を防ぐつもりか。
敵派閥同士の潰し合いという形に持って行くんだな?
仕方ない、一旦帰ってサルビアを連れて行こう。
家に帰るとサルビアもいない。
どうやら、アウグスト派に連れ出されたようだ。
くそぅ。
全て後手に回っている。
誰が誰を狙っているのか未だによくわからないし……。
もう、アイリスと二人で守るしかないか。
あ、サイトがいるな。
でも、役に立つかな?
いないよりはマシか。
こうして僕はイザベラ邸へ向かった。




