第93話 エンディング
すみれたちが元の世界に帰ってきてから、約一年が経過した。
そして今日は、アマリリスこと甘利里緒と、エニシダこと西田永助の結婚式が行われている。
「アマリリスさん、エニシダさん。本当におめでとうございます!」
すみれからの言葉に、里緒ははにかむ。
「ありがと。あんたたちが結婚する時も、ちゃんとあたしたちを呼ぶんだよ」
そう言われてすみれと千尋は顔を見合わせて、照れくさそうに微笑む。だが、そこにはほんの少しだけ暗い影がある。
すると、話が途切れたのを見計らって、永助が千尋に尋ねる。
「あの、ここで聞くことではないかもしれないんですが……伊刈さんはまだ目を覚まされてないんですか?」
千尋は頷く。
「はい。苦しそうではないので、そこは安心しているのですが……」
今から約一年前、すみれたちは元の世界に帰って来た。
自宅で目を覚ましたすみれは、どれくらい時間が経っているか不安だったが、確認してみると、あの世界に行く前の時間から数秒程度しか経っていないことに気づき、安堵した。
そしてすみれが目を覚まして少しした時、千尋から電話がかかってきた。
〈―――もしもし、すみれちゃん?〉
「良かった! 先輩も戻ってこられたんですね!」
嬉しそうなすみれの声に、千尋も電話の先で安堵したのを感じ取れた。
〈本当はもう少し話していたいけど、大志のことが心配だから、一回切るね〉
「はい、分かりました」
すみれが返事をすると、すぐに電話が切れた。
そうだ。大志はあちらの世界で、蘇生したはずなのに目を覚まさなかったのだ。
そこですみれは、魔王の言葉を思い出す。
―――そなたたちが元の世界に帰った後、起こるであろうことは、あのゲームのお知らせに載せておくから、確認してほしい
すみれはすぐに自分のスマートフォンの、「リレヴァーメン」のお知らせを見る。そこには、魔王の言っていた通り、「大事なお知らせ」が載っていた。
載っていた内容は、大きく分けて三つだった。
一つ目は、これからはメンテナンスやゲーム内容の更新はしないということ。
当然だ。あの世界で戦える人間を育てる為に作ったゲームなのだから。むしろ、サービスを終了しないでくれたのが、ありがたいくらいだ。
二つ目は、あの世界でイウスティオ。滅びの理由によって殺された者は、この世界に戻ってくることも出来ないということ。
すみれは、自分のことを慕って回復魔導士になったプレイヤーたちを思い出し、表情を曇らせる。時間が巻き戻っても生き返らなかったから分かっていたが、正直辛い。
そして三つ目のお知らせを読もうとした時、千尋から再び電話がかかってきた。
〈すみれちゃん! 大志が…………〉
千尋の切迫した声を聞いて、すみれは言葉を失った。
三つ目は、あの世界で死亡したプレイヤーは、こちらの世界に戻って来た後に目を覚ます時間が、死亡した回数によって遅れる。そして十一回以上死亡したプレイヤーは、こちらの世界に戻ってきた時に昏睡状態に陥り、目を覚ますかどうかは本人次第ということだった。
大志と麗美、亜里沙はそれぞれ自宅や外出先で倒れているのが発見され、病院に搬送されたが、昏睡状態となって入院することになった。
十回死亡した絵美里も、この世界に戻ってきてから一時的に昏睡状態になっていたが、一か月後になんとか目を覚ました。
部長が突然いなくなり、美術部の部員たちは元副部長の千尋を頼った。千尋は部長になることを了承し、すみれも一緒に美術部に復帰した。
元の世界に戻ってきてから一か月後、最強の七人は久しぶりに再会した。そこで彼らはプレイヤーネームではなく、本名で改めて自己紹介をした後、それぞれ近況を報告しあった。
最強の七人の中では、親戚や家族が誰も犠牲になっていないことを知り、全員が安堵した。滅びの理由に目をつけられなくて、本当に良かった。
「そういえば、チヒロ君の友人の彼は、どうなんだい?」
リュウこと木津田隆から尋ねられて、千尋は目を伏せる。
「大志は、こちらには戻って来られましたが……まだ目を覚ましていません」
千尋がそう言った後一瞬、沈黙が落ちる。
だがすぐに、スグリこと村主正吾が話を切り替えるように言った。
「そういう話も含めて、今回みたいに現実で集まらなくても、ゲームのチャットで出来るだけ情報共有はした方が良いな」
その言葉にすみれたちは頷いた。
正吾が言ったように、すみれたちは一週間に一回は必ず、何かしらの方法で情報を共有するようにした。だが、暗い話ばかりではない。里緒と永助の結婚式をするという話も、ここで伝えられた。
当然、最強の七人全員が二人の結婚を喜んでいたが、一番喜んでいたのはタケルこと芹澤猛だった。
「二人とも本当におめでとう! アマリリスちゃんの花嫁姿、楽しみにしてるわ!」
それから特に問題が起きることもなく、時は緩やかに流れていった。
そして一年ほど経過した現在も、大志たちは未だに目を覚ましていない。
里緒と永助の結婚式の翌日。病院のベッドで眠り続ける大志を見下ろしている時、千尋は横にいるすみれに謝る。
「ごめんね。本当はすみれちゃんが卒業したら、結婚式を挙げたいんだけど」
大志が目を覚ましていない時にしても、きっと自分は幸せな気持ちにはなれない。そんな状態で結婚をしたら、すみれにも失礼だ。
そんな千尋の気持ちを察して、すみれは首を横に振って彼を安心させるように微笑む。
「いいえ。伊刈先輩が目を覚ますまで、待っていますから」
今までの自分だったら、きっとそんなことは思えなかっただろう。大志とは色々あったし、全てを許したわけではないが、今では大切な仲間の内の一人だ。
「―――――だったら、俺も結婚式に呼べよ?」
唐突に聞こえてきた声に、すみれと千尋ははっとして大志の方を見る。大志はいつの間にか目を覚ましていた。
「部員の結婚式に部長が行くのは当然だろ? 祝辞でいろんなことを暴露してやるから、覚悟しておけよ?」
笑いながら言う大志に、千尋は涙を流しながら笑う。
「全く……相変わらず悪知恵だけは、働くんだから……」
すみれも、つられて零れた涙を拭う。
大志が目を覚ましたということは、麗美と亜里沙も近いうちに目を覚ますだろう。
「賑やかな式になりそうですね」
「うん。今から楽しみだよ」
微笑むすみれに千尋も微笑みを返す。
病室の窓から見える空は、彼らを祝福するような、雲一つない青空だった。
おしまい
これで、『回復魔導士は私だけ』は完結となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
次の改稿版の投稿まで時間を頂くとは思いますが、その時はまたよろしくお願いします。




