第90話 正義の味方
自分の前に立ちはだかる大志を見て、滅びの理由はイウスティオの体を指差しながら嘲る笑みを浮かべる。
「お前、こいつにいいように使われてた奴じゃん」
滅びの理由の言葉に、大志は無言を貫く。
「そこの回復魔導士を攫う手助けをしといて、今更正義の味方気取りか?」
そうだ。確かに自分は一度、イウスティオに助けられて、彼に言われるがまま、すみれがナオに連れ去られるのを黙認した。
それは、白の遺跡にある隠し部屋の水晶で見たから分かっている。
我ながら、すんなりと納得してしまったものだ。
あんな状態の自分なら、きっとそう行動してしまうと。
後ろめたさはあっただろう。だが、自分を助けてくれた人に報いたいとも思ったに違いない。中学時代から友人だった千尋と喧嘩別れをして、千尋にも自分にも苛立って、この世界に来て後輩二人を死なせてしまって、自尊心がズタズタになっていたから。
こんな自分でも役に立てると、証明したかったから、あんな愚かなことをしてしまった。
「―――ああ、そうだよ。でも、正義の味方面して、何が悪いんだ?」
開き直ったような大志の言葉に、滅びの理由は瞠目する。
咄嗟に言葉が出てこない滅びの理由に、大志は更に笑いながら続ける。
「元のそいつの方が、よっぽど人の心に付け入るのが上手かったぞ」
「黙れ! 負け犬の分際で生意気なんだよ!」
大志の煽りに、滅びの理由は苛立ちを露わにする。そして大剣を大志に向かって振りかざす。それを大志はしっかりと受け止める。
「千尋! お前は雲井の傍を離れるなよ!」
大志は振り返らずに背を向けたまま、声を張り上げる。
「もちろん!」
千尋も同じくらい大声で返す。
大志が滅びの理由を押さえている間に、スグリたちはそれぞれ、すみれを守るのと滅びの理由を足止めするのに分かれる。
即死魔法のデメリットが消えて、すみれが救済魔法を使えるようになるまで残り十分。ここにいる全員がレベル90以上で、準備は万端に済ませたつもりだが、滅びの理由が何かしてくる可能性がある以上、油断は出来ない。
すみれたちの予想通り、滅びの理由はすぐに動き出した。
「来い……!」
滅びの理由がそう言った瞬間、彼の足元の影から無数の黒い獣のようなものが現れる。その気配は、滅びの理由と全く同じだ。
「つまり、即死魔法のデメリットが解除される前までに、お前らを殺せばいいんだよな」
強さで分が悪いなら物量で押すまで、ということだろう。
確かに、こちらは他の魔族に気づかれないようにする為、人数は少ない。
最強の七人と大志、麗美、絵美里、亜里沙。一方で滅びの理由の方は、黒い獣を百体は出現させている。
低レベルならば良かったのだが、戦ってみて分かった。この黒い獣は、自分たちと同じくらいのレベルがある。すみれの補助魔法がありながら、一体を倒すだけでも手間取ってしまう。そして滅びの理由も、喚び出した黒い獣だけに戦わせておらず、貪欲にすみれの命を狙いに来ている。
即死魔法のデメリットによる苦痛に耐えながら、すみれは疑問を抱いた。
どうして滅びの理由は、この世界を何度もループさせているのだろうか、と。
次話は3月30日に投稿予定です。




