第89話 滅びの理由
世界救済作戦当日。最強の七人は今までの魔王討伐作戦と同じ流れで、魔王の居城の中に潜入した。
城内には、魔王以外に敵は誰もいない。だからここで、この世界を元に戻す。
「すみれちゃん、準備はいい?」
千尋の確認にすみれは頷く。
「はい。いつでも行けます」
そしてすみれが魔法の呪文を唱えようとした時。
「―――救済魔法なんて、そんな都合のいいものが本当にあると思ってるのか?」
突然の声にすみれたちは驚いて振り返る。そこにいたのは、イウスティオだった。だが、雰囲気が今までとはまるで違う。
「アナタ……誰?」
警戒をしながらタケルが尋ねる。すると、イウスティオらしき男はつまらなそうに答える。
「オレに名前は無い。だが、オレが何なのかは答えてやる。魔王が言っていた“滅びの理由”だよ」
イウスティオの姿をした者の言葉にすみれたちは瞠目する。
「イウスティオはどうしたんだ?」
大剣の柄に手をかけながら問うスグリに、滅びの理由はイウスティオの胸の辺りに手を当てる。
「こいつは魔王の分身を殺した後から、心が不安定になっちまったからな。魂を殺して体を貰い受けたのさ」
本当はもう少し様子見していたかったけど、と少し残念そうに滅びの理由は呟く。
滅びの理由を前に、すみれたちは臨戦態勢でい続けている。
滅びの理由が自分たちを邪魔してくることは、魔王から事前に聞いていたから、予測していた。だが、それがイウスティオの体を奪って現れたのは予想外だった。この状況からして、滅びの理由は人間や魔族の体に憑りつく、実体のない存在だと思われる。
すると滅びの理由は唐突に、すみれたちに質問を投げかけてきた。
「どうして創世の書に、世界の異変の解決法が書かれていなかったと思う?」
そうだ。ずっと疑問に思っていた。いくら古い書物でも、世界の異変がどのように解決されていたかだけ、全く記されていなかったことが。
「簡単な話だ。回復魔導士がその体にオレを封印して、そのまま死んだからさ」
当時の回復魔導士は、最後まで救済魔法をどうすれば使えるようになるか、分からなかった。だから回復魔導士は、その身に滅びの理由を封印した。そして滅びの理由ごと命を絶ったのだ。
「あの回復魔導士は死んだ後も、オレを魂で縛り続けて復活できないようにしてたんだ。迷惑な奴だったぜ。それも数千年の辛抱だったけどな」
数千年、回復魔導士はこの世とあの世の境で、文字通り魂を削って滅びの理由が復活しないようにしていた。だが、一人では限界が必ず来てしまう。
「数千年経ってあいつの魂はボロボロになって消え去った。つまりオレがあいつを殺したようなもんだ。だから解決法は誰も覚えちゃいないし、オレもやっと復活できたってわけ」
滅びの理由は、自由に動ける生物の体が無ければ、何も出来ない。復活した後に滅びの理由は、下等魔物を仮の宿としてしばらく様子を見ていた。
「そこでオレはイウスティオを見つけたんだ。どこかに行ってしまった魔王に執着している勇者様を、な」
滅びの理由はイウスティオの体に入り込んだ。己の力が使えるようにして、後は何もしなかった。何もしなくとも、イウスティオは勝手に力を使いこなし、勝手に暴走していった。
「笑えるよな。倒すべき相手が間近にいるのに気づかないで、どんどん悪に染まっていくんだから!」
それを聞いてすみれたちはようやく分かった。イウスティオに殺された人たちが次のループで復活できなかったのは、滅びの理由の力によるものだったのだ。そして、イウスティオに殺された人のことを誰も覚えていなかったのも、それが原因だ。
「それでどうするんだ? お前もあいつと同じように、数千年孤独にオレを封印し続けるのか?」
嘲る滅びの理由を、すみれは真っすぐに見つめながら告げる。
「いいえ。救済魔法はあります」
滅びの理由は目を丸くする。どうやら虚勢を張っているわけではないらしい。
「へえ。そう言うんだったら、やってみなよ」
軽く促す滅びの理由に、すみれは呪文を唱える。
「じゃあ、お望み通り……即死!」
すみれの即死魔法は、確かに滅びの理由に命中した。だが、完全に無効化される。それでも関係なしにすみれは即死魔法のデメリットを受けて、その場に座り込む。
そんなすみれを見て、滅びの理由は笑い出す。
「オレに即死魔法をかけるなんて、とうとう焼きが回ったか! オレは生物でさえないから、効くわけがないんだよ」
荒い息を吐き出しながら、すみれは少しも絶望した様子を見せず、微笑んでいる。
「……いいえ。即死魔法はあくまでも、救済魔法を使う為の準備です」
救済魔法を使うには、順序がある。
即死魔法を使い、そのデメリットが解除された後にようやく使えるようになるのだ。
ざわり、と心が逆立つのを滅びの理由は感じた。
嘘や冗談を言っているわけではない。あの回復魔導士はその方法で、本当に救済魔法を使うことが出来る。
滅びの理由の瞳に、初めて敵意が宿る。
「だったら……救済魔法を使う前に殺してやるよ!」
そう言って滅びの理由は、すみれに向かって大剣を振りかざす。
だが。
「―――そんな簡単に行くと思ったか?」
そんな声と共に滅びの理由の大剣が弾かれる。すみれの前には、いつの間にか大志が立っていた。
次話は3月16日に投稿予定です。




