第88話 世界を救う方法
翌日。最強の七人は、互いの近況報告の為、スグリの部屋に集まっていた。
最初にタケル、次にリュウ、アマリリスとエニシダ、最後にすみれと千尋がやって来た。
「おはよう」
「おはようございます」
部屋に入ってくる時に、千尋とすみれがスグリたちに挨拶をする。そこでアマリリスはあることに気づいて、すみれに尋ねる。
「あれ? 顔赤いみたいだけど、具合でも悪い?」
アマリリスに指摘されて気づいたすみれは、はっとして首を横に何度も振る。
「い、いえ! 全然大丈夫です!」
どこか誤魔化しているように見えるすみれの額に、アマリリスは手を当ててみるが、確かに熱はない。首を傾げるアマリリスが、すみれと一緒に来た千尋にも聞いてみようと目を向けて、目を瞬かせる。よく見ると、千尋も顔が少し赤い気がする。
すると、アマリリスは後ろから肩をポンポンと軽く叩かれた。振り返ると、いつの間にかタケルがいて、他の誰にも聞こえないように耳元で囁く。
「……多分、スミレちゃんと千尋君…………」
それを聞いたアマリリスは目を輝かせる。そしてすみれの頭をしきりに撫でる。
「アマリリスさん?」
少し戸惑った様子のすみれに、アマリリスは心底嬉しそうに笑いかけた。
魔王討伐作戦改め、世界救済作戦一週間前。すみれはついに、レベルを100にすることができた。
そこで、最強の七人だけで集まってささやかにお祝いをすることになった。集落の中で大きくやらなかったのは、
「すみれちゃん、レベル100おめでとう!」
「ありがとうございます」
千尋の言葉に、すみれははにかむ。
「それで、救済魔法は使えるようになったのかい?」
リュウの問いに、すみれは真面目な表情になる。
「そのことについて、皆さんに相談があるのですが……」
すみれは千尋たちに、自分が使用できる技の一覧を見せる。そこに救済魔法の名前どころか、即死魔法より下に、新しく使えるようになった魔法は記されていない。
「これって、救済魔法が使えないってことですか……!?」
明らかに戸惑った様子のエニシダが声と体を震わせる。
そんなエニシダの頭をアマリリスが軽く殴る。
「こら。話は最後まで聞くよ」
「は、はい……」
エニシダが涙目になりながらも頷いたのを見て、すみれは続ける。
「確かに、ここには救済魔法は記されていません。そこで、昨夜ヴィオラチュームさんに相談したんです」
ヴィオラチューム。すみれたちがこの世界に来る前の、“最強の七人”の中の回復魔導士だった女性だ。イウスティオによって殺される直前、彼女は夢魔の血を引くことから、夢の中に自分の人格を残して、今も世界が元に戻ることを祈っている。
昨夜、すみれはヴィオラチュームと夢の中で再会した。
「スミレさん、お久しぶりです」
「ヴィオラチュームさん! またお会いできて嬉しいです」
満面の笑みのすみれに、ヴィオラチュームも嬉しそうに微笑む。
「スミレさんが救済魔法を使おうとしているのを知って、悩んでいるようだったので、夢にお招きしました」
「ヴィオラチュームさんは、救済魔法をどうすれば使えるようになるのか、知っているのですか?」
すみれが尋ねると、ヴィオラチュームは前と同じように直径2メートルほどの薄紅色の水晶を出現させる。
「私ではなく、ある方がその可能性を見出したという感じですね。ほんの少しの間の会話ですが、きっとあなたなら、そこから辿り着けるはずです」
すみれは頷くと、水晶に手を触れてヴィオラチュームの記憶を見始めた。
すみれが見たのは、あることをする為に己を犠牲にした、一人の後悔の独白だった。
あの時は、それ以外に思いつかなかった。これでみんなが平和に生きられるなら、孤独な戦いにも耐えられると思っていた。
けど、駄目だった。耐え切れなかった。想像していたよりもあれは強くて、自分の魂は食い潰されてしまった。
消え去る今だから、分かる。生きて世界を救う資格が、自分にもあった。正しい方法に辿り着いていれば、数千年孤独な戦いをする必要はなかったのだと。
あなたが、それをこれから先の回復魔導士に伝える術があるのなら、託します。世界を救う真の方法を。
そして、その人物が語った方法をすみれは千尋たちに告げた。
「……その方法で救済魔法が使えるようになるんだね?」
千尋の確認にすみれは頷く。
「はい。皆さんを危険に晒してしまうかもしれませんが」
すみれがそう言った後、一瞬沈黙が下りる。だが。
「それで断るアタシたちじゃないことは、スミレちゃんも分かっているでしょ?」
タケルの明るい声に、部屋の空気がすぐに温かさを取り戻す。
「猛の言う通りだ。魔王や仲間の為にも、今回こそ世界を救うぞ」
スグリの言葉に、すみれたちは大きく頷いた。
次話は3月2日に投稿予定です。




