第87話 告白
すみれは大志たちを助けてから連日、レベル上げに勤しんでいた。
今までのペースではレベルを100まで上げられない。だから、多くのクエストに参加する必要があり、文字通り朝から晩までレベル上げをしていた。
クエストをクリアして、一度ヤマトの集落に戻ってきたすみれは、一人小さくため息をつく。
「……やっぱりレベル上がりづらいなあ」
現在、すみれのレベルは92だ。既に今までのレベルは超えているが、レベルを100にしなければ、この世界を元に戻す救済魔法を習得することは不可能だろう。それは、すみれ自身が感じていた。
レベルが上がれば上がるほど、次のレベルにする為に必要な経験値が増えていく。それはどのゲームでも同じだろう。
すみれは空を見上げる。時刻は既に夕方だ。もう一つくらいはクエストをこなせるだろうか。
どうしようか迷っていると、千尋がすみれに気づいて駆け寄ってくる。千尋と今日会ったのは、昼頃のクエスト以来だ。
「すみれちゃん」
「どうしました、先輩?」
不思議そうな顔をするすみれに、千尋は心配そうに声をかける。
「最近ずっとクエストをやっているから、ちゃんと休んでいるのかなって」
そんな千尋にすみれは安心させるように微笑む。
「大丈夫ですよ。夜はきちんと寝ていますし」
千尋はすみれの顔をじっと見つめる。
確かに、すみれの顔には疲れは見られないし、目の下に隈もない。彼女の纏っているローブにも汚れはついていない。どうやら嘘はついていないようだ。
ならば、少しだけ自分のわがままに付き合ってもらおう。
「ちょっと二人きりで話したいんだけど、いいかな」
一目のないところで話そうと、千尋はすみれを自室に招いた。
だが、部屋に入ってから数分経っても、千尋はなかなか話し出そうとしない。
「先輩? どこか具合でも……」
すみれが不安そうに千尋を見上げる。千尋ははっとして首を横に振る。
「ううん、大丈夫だよ」
すみれに微笑む中、千尋は心を落ち着かせようとする。
ずっと黙ったままだったから、心配させてしまった。これ以上彼女を不安にさせない為にも、覚悟を決めなくては。
「すみれちゃん」
「はい」
千尋が努めて冷静に名前を呼ぶと、澄んだ声ですみれが返事をする。
そうだ。自分は、どんな時も真っすぐに見つめてくれる彼女のことが。
「―――ずっと前から、君のことが好きなんだ」
一瞬、時が止まった気がした。それは、彼女の顔色が変わらないままだったから、そう錯覚しただけだ。
「本当は、元の世界に帰ってから伝えたかったんだけど、我慢できなくて」
全身が熱く、顔が真っ赤になっているのを自覚しつつ、千尋は早口で話す。
だが、すぐに沈黙に耐え切れなくなって、思わずすみれに謝る。
「ごめん、返事は後でも―――」
そう言って離れようとする千尋の服の裾を、すみれが掴んだ。すみれはうつむいていたが、微かに見える頬は赤い。
「……私も。私も、先輩のことが好きです」
相思相愛なのが分かり、千尋は嬉しくなって思わず、すみれを抱きしめる。
「先輩!?」
すみれが驚いて千尋を見上げると、彼の表情はずっと見てきた微笑みではなく、少年のような満面の笑みだった。
「良かった……! ありがとう、すみれちゃん!」
心の底から喜んでいる千尋に、すみれも同じ気持ちだと言うように、返事の代わりに彼の体をそっと抱きしめた。
次話は2月16日に投稿予定です。




