第84話 母
それからすみれと千尋は、最強の七人だけでなく、大志たちともレベル上げの為に依頼を受けるようになった。
「本当に俺らで良いのか? お前たちは“最強の七人”のメンバーなんだから、そいつらとレベル上げをした方が良いんじゃないのか?」
大志の言葉に、すみれはふわりと微笑む。
「いいえ、伊刈先輩たちが良いんです。私たちと連携を取れる人で、レベルが高い人を増やしたいので」
すみれにそう言われて、大志たちは顔を見合わせる。
どうやらお世辞ではないらしい。
「分かった。なら俺たちは、お前のレベルが100になるまで付き合ってやるよ」
「助かります」
どこか上から目線ながらも、棘は無い言い方にすみれはお礼を言う。
そんな穏やかな彼らの様子に、千尋は少し離れたところで眺めながら、嬉しそうに微笑んでいた。
美術部をあんな形でやめることになり、大志ともあの日から一度も話していなかった。正直、二度と会わないかもしれないとも思っていた。それが今、再会してあの別れが嘘のように平和で、千尋は泣きそうになった。
「千尋、さっさと行くぞ」
「……! すぐ行くよ」
大志に呼ばれ、千尋は軽く目元を拭うと、すみれたちのもとに小走りで向かった。
今から二十数年前、人王の息子としてイウスティオは誕生した。
この世界の全ての人間が待ちわびた、人王の後継者の誕生。だが、彼の母親を知る者は人王以外、誰もいなかった。子であるイウスティオも、赤子の頃の朧気な記憶以外、母の姿は覚えていない。
その為、王妃は息子を産んですぐに亡くなったとか、侍女との子どもとか、みなしごを拾ってきたなど、誰もが根も葉もない噂をしていた。
幼い頃、イウスティオは一度だけ父である人王に尋ねたことがある。
「お母さまは、どこにいらっしゃるのですか?」
死んだと答えられたら、子どもながらなんとか納得できたのかもしれない。しかし、父から返ってきた言葉は、別のものだった。
「母は生きている。ただ、やるべきことの為に遠くへ行っただけだ」
幼いイウスティオには、父の言葉が理解できなかった。生きているのなら、どうして自分や父と一緒にいてくれないのか。
そんな疑問を心に残したまま時は流れ、青年となったイウスティオは人王から、魔王を討伐するよう命じられた。
最強とうたわれる仲間とパーティを組み、ついに魔王を討伐した。だが宴の翌朝、世界の時は一年前に巻き戻ってしまった。
三度目の魔王討伐後、回復魔導士のヴィオラチュームも世界の異変に気づいていると知り、世界を元に戻す為に原因を探し続けた。
しかし、ここからイウスティオの運命の歯車は軋み始めた。
二十回目の魔王討伐作戦。イウスティオは今までと同じく、魔王にとどめを刺した。
魔王が絶命する直前、彼女は今まで見せなかった微笑を浮かべて。
「……イウス……ティオ―――――」
名前を呼んで、死んだ。
イウスティオは驚き、魔王の亡骸を見つめる。
名前の呼び方は、自分を殺した憎しみを込めたものではなく、ただただこちらを慈しむものだった。そして浮かぶのは、物心つく前にいなくなってしまった母のこと。
まさか。
「…………母様?」
魔王が自分の母なのか。
次話は来年の1月5日に投稿予定です。




