第83話 助けた理由
周辺に魔物がいなくなり、静まり返った境界の森の中で、すみれは大志に尋ねる。
「吉田さんと柴田さんはどこにいますか?」
ここにいない亜里沙と麗美の所在を聞かれ、大志は自分たちが走ってきた方向を指さす。
「……この先で魔物に殺されたよ」
すみれは大志が指をさした方向を見る。
やはりそうか。だが、大志と絵美里の様子から、二人が殺されてそこまで時間は経っていないと思われる。ならば、自分の力で生き返らせることができるはずだ。
「分かりました。先輩、行きましょう」
すみれが後ろにいた千尋に声をかけると、彼は頷く。そして立ち尽くす大志と絵美里に声をかける。
「ここにいると危ないから、大志たちもついてきて」
絵美里が返事をしようとした時、隣から大志の罵声が響いた。
「ふざけんなよ! 俺は一刻も早くこの森の外に出たいんだよ! 俺はまだ死にたくない! さっさと森の出口を教えろ!」
今までのすみれだったら、萎縮していただろう。だが、今の彼女の表情に怯えの色はない。
「大丈夫です。お二人にも補助魔法をかけたので。それに、死んだとしても私が生き返らせます」
真っ直ぐに目を見て言ったすみれを見て、大志は毒気を抜かれて思わず瞬きをする。
「……本当に雲井か?」
そんな大志に千尋が頷く。
「うん。すみれちゃんは最初から強かったよ」
ただ、彼女自身が自覚していなかっただけで、最初から優しくて、強い人だ。ただ、この世界に来てそれがはっきりと表に出ただけのことなのだ。
「……そうか」
そう大志が呟くと、彼はすみれたちに大人しくついて行った。
亜里沙と麗美は、すぐに見つかった。魔物に殺されてぴくりとも動かない彼女たちを、すみれはためらうことなく蘇生した。
「蘇生」
呪文と共に、亜里沙と麗美の体が淡い光に包まれて、やがて消える。すると二人の肌に血色が戻り、心臓と呼吸の音が聞こえて来た。
「…………あれ」
「…………いき、てる?」
目を開けた亜里沙と麗美は、戸惑ったように視線を彷徨わせて、やがて自分たちの横に座っているすみれに気づく。
「あ……えっと……」
「助けて、くれたの? ……えーと」
すみれは最初、彼女たちが自分を見て驚いているのかと思ったが、どうやら違うらしい。少し考えて、分かった。
自分の名前を忘れているのだ。あれだけ「友達でしょ」と言ってきたくせに。今更、名前を憶えていなくても構わないが。
「―――それで、千尋と雲井は俺らに何をやらせたいんだ?」
唐突に聞こえてきた大志の声に、その場にいた全員が振り返る。
「わざわざ俺らを助けたんだ。理由があるんだろ?」
そう尋ねる大志の表情は、誰かを馬鹿にするようなものでも、自嘲するようなものでもない。ただ、あくまで自分たちの状況を確認する為の冷静なものだった。
そうだ。大志は元々、他人を嘲るような性格ではない。冷静に周りを見ることが出来る人だ。だから美術部の部長になったのだ。友人である千尋を副部長にしたのも、一番向いていると判断した為だ。
千尋から聞かされていた大志の姿を見て、すみれは覚悟を決めた。
今の彼らなら、きっと大丈夫だ。
「この世界を救って、私たちが元の世界に帰れるようにする為に、力を貸してください」
次話は12月22日に投稿予定です。




