第82話 巻き戻りたい時間
レベルを上げる。おそらく、レベルを100まで上げなければ、救済の魔法は使えないだろう。今の自分のレベルは90だ。もう少し時間をかければ、上げられると思われる。
そうすみれが考えていると、魔王が話の続きをする。
「ただし、一つ注意することがある。救済の魔法は、発動までにかなりの時間を要する。だから呪文を唱えた瞬間、“滅びの理由”は確実に妨害しに来るだろうな」
そうだ。創生の書には、滅びの理由を突き止めるよう記されていた。魔王がそのような言い方をするということは。
「魔王さまは、滅びの理由が何かご存知なのですか?」
すみれの問いに魔王は頷く。
「ああ。だが、言えない。余がそれを語ってわざわざ刺激するのは、あまり上手くはない」
やはり魔王は滅びの理由を知っているらしい。答えてはくれないようだが。
「それよりも、今ならば、そなたたちを任意の時間に飛ばせそうだ。力をつける為に、もう少し前の時間に戻った方が良いと思うが、どうする?」
そう魔王に尋ねられ、すみれはある情景が思い浮かんだ。
―――……久しぶりだな、雲井
あの頃の自分なら、きっと考えすらしなかっただろう。だが今は、彼らの力も借りなければこの世界を救えない。そんな直感があった。
「少し細かい時間になってしまうのですが、良いですか?」
そう言ってすみれは、魔王に巻き戻りたい時間を伝えた。
世界が滅ぶまで、339日。
夕暮れの薄暗い境界の森の中を、大志と麗美、絵美里が必死に駆けていた。
十数分前にこの世界に来て、森を抜け出そうとした時に魔物が現れ、倒そうとしたところ、攻撃魔法を使っていた亜里沙が、魔物に一瞬で殺されてしまったのだ。
そこから逃げ出した大志たちだったが、次の獲物を狙うように、魔物は大志たちを追いかけてきていた。
その後、大志から牽制するように言われ、麗美が弓を番え、絵美里が攻撃魔法を魔物に向かって放とうとする。だが、麗美も魔物に一撃で殺されてしまう。それを見て、絵美里は少し先を走る大志と再び逃げ出した。
二人だけになった息遣いと、魔物の足音が夜になった森の中に聞こえる。
走り続けられればいいのだが、体力の限界というものがある。
やがて絵美里の足がもつれて、転んでしまう。すぐ後ろには、疲れを知らない様子の魔物が迫ってきていた。
「……待って、部長……」
苦しげな声で助けを求める絵美里を見た大志だったが、すぐに前を向き、走っていく。
「待って、部長……助けて、助けてよ……!」
もう駄目だ。絵美里がそう覚悟して目を閉じた時。
魔物の叫び声がした直後、魔物の気配が消える。いつまでも魔物が攻撃して来ず、絵美里は恐る恐る目を開ける。すると、絵美里の目の前には、いつの間にか見覚えのある人物が二人立っていた。
「―――――大丈夫ですか?」
そう言ってそのうちの一人が、絵美里に手を差し伸べる。絵美里は小さく頷き、その人物の手を取って立ち上がる。
そこに大志が戻ってくる。大志は自分の前にいる二人の姿を見て、瞠目する。
「お前ら、なんでここに……」
「もちろん、お前たちを助けに来たんだよ。大志」
そこにいたのは、すみれと千尋だった。
次話は12月8日に投稿予定です。




