第81話 最後の魔王討伐
それから特にこれといった出来事が起こることなく、再び魔王討伐作戦の日になった。
だが、今までとは大きく違う。
剣士はイウスティオからスグリに変わり、最強の七人全員がこの世界の状況を知っている。
魔王の居城の、大きな扉の前にて、スグリは静かに言う。
「……行こう」
扉の向こうの、とても天井の高い部屋で、彼女は今まで通りに待っていた。
「よくぞ来たな。異邦の強者たちよ」
十歳になるかぐらいの幼い見た目も、見た目に合った高い声も何も変わらない。
「さあ! この世界を滅ぼすのを止めたくば、余を倒してみせよ!」
すみれたちは今までと同じ文言に安堵しつつ、魔王との戦いを始めた。
相変わらず、序盤は魔王のHPの減りが鈍い。だがそれも、想定内だ。
「そなたたちも、もう分かっているだろう。そなたたちの攻撃では、余の命には届かない」
もう少し。もう少しで、魔王のHPは一気に減る。
「これでもまだ、力の差を理解していないのか―――――」
魔王がそう言った直後、彼女がよろめく。
「今だ!」
スグリの声と共に、彼らは魔王への攻撃を強める。魔王が苦しむ時間を、出来るだけ短くする為に。
「あ―――――」
魔王はその場に倒れた。HPのゲージはゼロを示す真っ白な状態になっていた。当然ながら、喜ぶ者はいない。喜ぶのは、この後のことが成功してからだ。
補助魔法をかけた後は離れたところで、戦いを見守っていたすみれが、千尋たちのもとに駆け寄る。
「すみれちゃん」
千尋に呼ばれ、すみれは頷く。
ここからが本番だ。
すみれは一度深呼吸をすると、そっと魔王の心臓辺りに両手で触れる。そして呪文を唱える。
「蘇生」
その呪文と共に、魔王の体が数秒淡い光に包まれて、やがて消える。すると彼女の肌に血色が戻り、心臓の音と呼吸の音が聞こえてきた。
そして魔王は、ゆっくりと瞼を開けた。
起き上がり、信じられないような表情で、己の手のひらを見つめて。
「―――――余は生きているのか?」
「はい。私が生き返らせました」
すみれが答えると、魔王はすみれを見て、それから順にスグリたちを見つめる。
「そうか…………」
すみれたちはその後の魔王の言葉を待つ。
操られているようには見えない。
「自由に体が動かせる。今なら、きちんと話が出来そうだ」
穏やかな様子の魔王のもとに、城の中に身を隠していたフィーデスたちも駆け寄って来る。
「魔王さま……!」
魔王を見つめるフィーデスたちの瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「そなたたちも来ていたのか。こうやって話すのは久しいな」
フィーデスたちを見る魔王の表情は、まるで自分の子どもを見るような温かさに満ちている。
「もう少し世間話でもしたいところだが、時が巻き戻るまで猶予はさほど無いだろう。心して聞いてほしい。この世界を元に戻す方法について、を」
魔王の表情が真剣なものに変わり、すみれたちは頷く。
「最も大事なことを最初に言うぞ。“人間で最も勇気ある者”と、“世界を救う筆頭” は確かに同じ存在を指している。だがそれは、剣士を指してはいない」
「え?」
魔王の予想外の言葉に、すみれたちは瞠目する。
そして魔王は、すみれを指さす。
「そなただ。いや、正しくは救済の魔法を修めた回復魔導士だが」
救済の魔法。初めて聞くが、おそらくその名の通り、世界を救済する魔法なのだろう。だが、まさか自分が世界を救う可能性があるとは、予想していなかったが。
「……その救済の魔法を使えるようにするには、どうすればいいのですか?」
尋ねるすみれに、魔王は不敵な笑みを浮かべる。
「そなたたちがずっとやってきたことだ。レベルを上げろ。さすれば、救済の魔法を扱えるようになるだろう」
次話は11月24日に投稿予定です。




