第79話 提案
すみれたちの周囲だけ、一瞬静まり返る。
最初に声を出したのは、千尋だった。
「タケルさん。その人って……」
千尋の問いにタケルは頷く。
「ええ。今までいた偽者じゃない。本物の“スグリ”よ」
「じゃあ偽者……イウスティオさんはどちらに?」
すみれの問いかけにスグリは首を横に振る。
「分からない。今回、あいつとは一度も会ってないから」
今までスグリは、ヤマトの町の外れで目を覚まして、イウスティオと出会っていた。
イウスティオと話している間に人王の居城に行く流れになり、紅茶に薬を盛られて、気がつくと地下牢に閉じ込められているのが、今までの流れだった。
だが今回は違った。
ヤマトの集落に着くまでイウスティオとは会わず、地下牢に囚われることなく、タケルと再会した。どちらも前回のループの記憶がしっかり残っていて、二人は再会を喜ぶよりも戸惑った。
「彼、どうしたのかしらね。ずっと上の空だったし」
確かに、魔王が世界を滅ぼす前、イウスティオは様子がおかしかった。だが、魔王も今までの彼女とは違った。
今までは台本に書かれたセリフをなぞるだけだったのに、初めて感情を見せたように感じた。魔王ではなく別の誰かの、だが。
「イウスティオさんのことは気になりますが、まずはアマリリスさんとエニシダさん、リュウさんを探しに行きましょう」
千尋の言葉に、すみれたちは頷いた。
アマリリスとエニシダ、リュウもすみれたちを探していたらしく、すぐに合流できた。そしてただ一人、状況を飲み込めていないエニシダが、すみれたちに助けを求めるように声をかけてきた。
「あ、あの、一体何が起きたんですか? 魔王が何かしたと思ったら、いつの間にか集落に戻っていて……」
すると、エニシダの様子を見ていたアマリリスとリュウが、すみれたちに提案する。
「ねえ。偽スグリがいないんだから、こいつにも今までの記憶を共有した方が良いんじゃない?」
「そうだな。エニシダ君にも、そろそろこの世界のことを教えた方が良さそうだね」
二人の意見にすみれたちは、特に異論はなかった。
エニシダに今までの記憶を共有していなかったのは、イウスティオに記憶を有していることに気づかれると厄介だったからだ。隠し事ができない、顔に出るとアマリリスのお墨付きだったので、そうしてこなかったのだ。
だが、ここにイウスティオがいない今なら、その問題はない。
「え? え?」
自分の知らないところで、物事が次々と決まっていくことに困惑するエニシダを、すみれたちは半ば強引に白の遺跡の隠し部屋に連れて行った。そして水晶を使って今までのループの記憶を共有した。
「…………すみません。しばらく、頭の中を整理させてください」
そう言ってエニシダは部屋の隅で頭を抱えてうずくまってしまった。
「エニシダさん、大丈夫でしょうか」
心配そうにエニシダを見るすみれに、アマリリスは安心させるように笑う。
「大丈夫、大丈夫。仕事の時も何かトラブルがあると、ああなっていたから。数分で何とかなると思うよ」
そう言ったアマリリスの声に不安の色はない。
元からの知り合いであるアマリリスが言うのなら、間違いないのだろう。
そしてアマリリスの言う通り、数分後には部屋の隅からエニシダが、頭をぺこぺこと下げながら戻ってきた。
「すみません。何とか状況を把握できました」
エニシダの様子を見て、すみれたちは安堵する。
「それで、これからどうしましょうか?」
千尋の言葉に、その場にいた全員が考え込む。
今、最強の七人全員が、この世界について分かっている状態だ。だから、今までよりもやれることは多い。だが、どうすればこの世界の平穏を取り戻すことが出来るのか、よく分かっていないのが現状だ。
過去、同じように世界に異変があった時、一体どうやって解決したのだろうか。
隠し部屋の中に沈黙が落ちる中、エニシダがぽつりと呟く。
「お城にいる魔王さまを、味方にできればいいんですけどね……」
エニシダの言葉に、すみれたちははっとする。
そうだ。今まではイウスティオがいたことと、最強の七人全員がこの世界の状況を知らなかった為、魔王は倒して終わりだった。
だが今なら、魔王を倒しても蘇生が出来るかもしれない。
城にいる魔王は、死ぬ直前に自分が操られていたことを自覚するらしい。ならば、一度死んで蘇生すれば、分身と同じように操られていない魔王と話が出来る可能性があるのだ。
「そうと決まればやってみようよ! 駄目だったら今度は別のことをやってみればいいし」
アマリリスの言葉に、すみれたちは力強く頷いた。
次話は10月27日に投稿予定です。




