第78話 記憶への影響
すみれは、窓から差し込む陽の光で目を覚ました。
「……っ」
勢いよくベッドから起き上がると、体のあちこちを確認する。特に欠損などなく、すみれは大きく息を吐き出した。
魔王が世界を滅ぼしたことによって、時間が巻き戻ったのは初めてだった。
すみれは机の上に置いてある日記に手をかける。今回も三か月巻き戻ったのだろうと日記を開いた。だが、すみれの予想とは少しずれていた。
「え……?」
日記に書かれていたのは、この集落に初めて来た日付の内容だけだった。十日ほどの差だが、今までと違うことにすみれは戸惑う。
魔王を倒したことによるループではなかったからだろうか。それとも、この世界自体に異変が起き始めているのか。
そこまで考えたところで、すみれは一度、ゆっくりと深呼吸をする。
自分一人で、あまり考えすぎても駄目だ。きっと、嫌な方に想像力が働いてしまう。
まずはいつでも外に出られるように着替えよう。他のことは、それから考えた方が良いだろう。
そう自分に言い聞かせて、すみれは着替えに手を伸ばした。
着替え終わった後、控えめに部屋の扉がノックされる。
「すみれちゃん、今入っても大丈夫?」
千尋だ。彼がこちらに来るなんて珍しい。一体どうしたのだろうか。
「はい、大丈夫ですよ?」
不思議に思いつつ、すみれは扉を開ける。そこには、いつもの穏やかな表情の千尋が立っていた。
「こんな朝早くからごめんね。失礼します」
そう言って千尋がすみれの部屋に入る。扉を閉めると、千尋の表情がすっと引き締まった。
「単刀直入に聞くんだけど、すみれちゃんは、魔王さまがこの世界を滅ぼしたこと、覚えてる?」
千尋の言葉に、すみれは驚く。
「前のループまでのこと、覚えているんですか?」
「うん。自分でも驚いているよ」
何か異変が起きているのは予想がついていたが、まさか記憶にまで影響があるとは思わなかった。
そこですみれは気づいた。
千尋が前のループまでのことを覚えているということは、他のプレイヤーも覚えている可能性があるということだ。
千尋も同じ考えだったようだ。
「これから、他のみんなに会いに行こうと思うんだけど、すみれちゃんもついてきてほしいんだ。いいかな?」
「はい。もちろん行きます」
千尋の言葉にすみれは頷き、二人は宿舎から出た。
外に出たが、他のプレイヤーたちは特に困惑している様子は見られなかった。さすがにプレイヤー全員が覚えているわけではないらしい。
それを少しだけ残念に思いつつ、すみれと千尋は自分たち以外の最強の七人を探し始める。イウスティオがどんな状態か分からないが、最強の七人だけでも前のループの記憶を持っていてくれるとありがたい。
「―――スミレちゃんとチヒロ君! 無事で良かったわ!」
背後からタケルの声が聞こえた。どうやらタケルも前のループのことを覚えているらしい。
「タケルさ―――」
タケルに声をかけようと振り向くと、タケルの隣にはスグリがいた。だが。
そこにいた“スグリ”に、すみれと千尋は目を丸くする。
彼はイウスティオではなく、タケルに正吾と呼ばれていた本物のスグリだった。
次話は10月13日に投稿予定です。




