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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第7章
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第73話 最後の頼み

 最初に二人の頭の中に、魔王の過去が流れ、次にすみれと千尋の今までの出来事が流れた。ここまでは今まで通りだ。

 その次に流れてきた映像には、魔王が一人、こちらを見ていた。


「―――このようなものを残したのは、初めてだな」

 まず初めに魔王はそう言って、照れくさそうにはにかんだ。

「陳腐な言い回しだが、あえて言おう。……これをそなたたちが見ているということは、余は既に、死んでいるのだろう」

 そして胸の前で拳を強く握りしめる。

「予感がするのだ。そなたたちの内の誰かが、命を落とすと。だから余は、この身を盾に護るつもりだ」

 拳が開かれ、腕の力を抜いたのか、だらりと下がる。

「ここにいる余は、あくまで分身だ。余が死んだところで、本体にはさして影響はない。……そなたたちとまともに話す機会は、失われてしまうが」

 所詮自分は、分身だ。だが、彼らと語らったのは本体ではない。本体にこちらの記憶が共有されたとしても、それはどこか遠いものと成り果てるだろう。

分身()からの最後の頼みだ。この世界と、本体を救ってくれ」

 そう言って魔王は、美しくも儚い微笑を浮かべた。


 映像が終わり、景色が隠し部屋に戻ったところで、すみれが千尋の方を見ると、彼の表情は暗かった。

「…………ごめん。僕のせいだ」

 己を責める千尋に、すみれは首を横に振る。

「いいえ。先輩は何も悪くないです」

 あれは、運が悪かったとしか言えない。千尋が悪いと言うのなら、その後に挑発に乗って即死魔法を使った自分も悪い。そうしなければ、イウスティオが自分を殺しに来ることも無かったのだから。

 すみれは千尋の手をそっと握る。彼の手は、微かに震えている。

「私が言えることではないかもしれませんが、きっと先輩が悲しむことを、魔王さまは望んでいないと思います」

 だからこそ、魔王は水晶に残したのだ。己を悲しむ時間を作らないよう、復讐などさせぬよう、最後の頼み事をしたのだ。

「……うん、確かにそうだね。ありがとう」

 そう言って千尋は、気合いを入れる為に自分の頬を強めに叩く。

「反省は後回しだ。まずは、アマリリスさんとリュウさんと情報共有をしないとね」

「はい!」

 そしてすみれと千尋は、白の遺跡を後にした。




 翌日、すみれと千尋は、アマリリスとリュウを連れて再び白の遺跡を訪れていた。

 隠し部屋の中央にある水晶に触れて、アマリリスとリュウの記憶を取り戻すのと同時に、彼らの記憶を共有し始めた。



 魔王を討伐し、ヤマトの集落で宴が開かれている頃、アマリリスとリュウは人王の居城に侵入していた。

 抜け穴から広い部屋に入り、そこから廊下に出る。巡回している兵士に会わないように進みながら、城の一番北にある部屋に入る。

 全体的に薄暗く、薄っすらと埃が積もっている部屋の壁の中央には、どことなく人王に似た男の肖像画が飾られている。おそらく、この部屋は先代の人王のものだったらしい。

 そして、肖像画から見て左側の壁を押すと、一部が回転扉となっていていた。扉の先は石造りの階段となっていて、下へと続いている。

 アマリリスとリュウが、この階段を見つけたのは、この部屋と隣の部屋の距離が異様に離れていたことと、壁の一部だけ埃がほとんどなかったからだ。

 二人は下見で、階段の手前までは来た。だが、階段の先がどうなっているかは知らない。気温が徐々に下がっていくのを感じながら、階段を下りていった。

 これだけ念入りに隠されていたということは、この下に本物のスグリが囚われている可能性はかなり高い。

 三十段ほど階段を下りたところは、すみれが前のループで囚われていた「忘れじの塔」の牢獄とよく似ていた。おそらく、城に攻め入った者を捕らえる為のものだったのだろう。

 いくつもある牢獄の中を慎重に見ながら、アマリリスとリュウは本物のスグリを探す。そして二人は見つけた。無人の牢獄の集まりの中で、一つだけ人が閉じ込められている。そこにいた青年は、髪も目も黒く、アバターで見たスグリの姿とは違う。だが、きっと彼が本物のスグリなのだろうという確証があった。

「あんたが、本物のスグリだね?」

 アマリリスの声に眠っていた青年は目を覚まし、ゆっくりと体を起こす。

「…………お前たちは?」

「俺はリュウ。彼女はアマリリス。それで分かるだろう? 助けに来たよ」

 そう言った直後、探るようなスグリの目から涙が零れた。

「……気づいてくれたんだな、あいつが偽者だって……」

 嬉しそうなスグリの様子に、アマリリスとリュウはほっとしつつ、ここからどうしようかと悩んだ。

 スグリが閉じ込められている場所は、これで完全に分かった。ループしたとしても、記憶を取り戻せば、早いうちに確実に助け出せる。だから、ここで彼を牢獄から出す必要はない。

 だが、こんなに喜んでいる彼を、たとえ数十分で時間が巻き戻るとしても、このままにするのはどうかと思った。

 アマリリスもリュウも同じ考えだったので、彼らは互いに頷くと、鉄格子を攻撃で壊そうとする。

 その時。

「―――――それじゃあ上に音が聞こえるわ。ここはアタシに任せて」



次話は8月4日に投稿予定です。

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