第71話 頼む
高台にいる者で生きているのは、すみれただ一人だ。
「はあっ、はあっ……」
即死魔法のデメリットを受けているすみれは、荒い息を吐き出しながら、デメリットが解除されるのを待っていた。
デメリットが解除されれば、すぐに千尋を蘇生できる。敵はもう全て倒したから、大丈夫なはずだ。
だが。
「―――油断したね、スミレさん」
そんな声が聞こえた瞬間、大剣を手にしたスグリが、高台への坂道を歩いて現れる。
おそらく、即死魔法が届かない範囲ギリギリのところに身を潜めていたのだ。
すみれは気づいた。あれは、ナオによって即死魔法を使うように誘導されたのだと。
デメリットが継続している今、HPは通常よりもずっと少なく、すぐに回復することもない。
スグリに殺されてしまえば、次のループになっても生き返ることはできない。ヴィオラチュームや他の回復魔導士のように死に、全ての人間に存在を忘れ去られてしまう。アマリリスにも、リュウにも、エニシダにも、タケルにも。千尋にも。
すみれは震える手で千尋の体を抱きしめる。それをスグリは冷たい瞳で見下ろす。
「君はもう必要ない。死んでくれ」
すみれに向かって大剣が振り下ろされた時。
すみれとスグリの間に小さな影が滑り込み、すみれの代わりに大剣の刃を受ける。すみれの目の前で倒れたのは、魔王の分身だった。
「魔王さま……!?」
「―――は?」
すみれとスグリの声が同時に響く。
すみれは慌てて魔王を抱き起こす。上体を斬られ、その小さな体を真っ赤に染めた魔王のHPのゲージは、ほとんど真っ白になっていた。大剣には毒が付与されていたのか、僅かに残ったHPも少しずつ削られている。
薄っすらと目を開けた魔王は、すみれを真っ直ぐに見つめる。
「何やら胸騒ぎがしてな。……間に合って良かった」
魔王の微笑みにすみれは泣きそうになる。
ふいに何かが落ちる大きな音がして、すみれは振り返る。
スグリが大剣を落とした音だった。
「…………カモミール? なん、で」
スグリ。否、イウスティオは、寄る辺を無くした子どものような顔をしていた。
彼からはもう、すみれへの殺意は消えている。すみれも、イウスティオへの恐怖は消えていた。
すぐに毒を消して、回復させれば、魔王は助かるだろう。だが、デメリットはまだ続いていて、魔王を回復させることができない。
それが悔しくて、すみれの瞳から涙が零れた。零れ続ける涙を、魔王は眩しそうに見ると。
「本体を頼む」
魔王がそう言った直後、彼女のHPのゲージは完全に真っ白になった。
「魔王さま!」
そして唐突に視界が暗転した。
次話は7月7日に投稿予定です。




