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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第1章
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第7話 蘇生

 数分後、速足で歩いていた青年の足が一軒の家の前で止まる。

「ここが俺の家だ」

 そう言ってすぐに玄関の扉を開けて、青年はすみれを中に入るように促す。

「おじゃまします……」

 他人の家に入ることに少しためらいつつ、すみれは家の中に入る。

 青年が迷わずに入った部屋にすみれも入ると、彼女は足を止めた。

 部屋の真ん中に薄茶色の木でできた棺があり、その中に壮年の男性が眠るように横たわっている。彼が青年の父親か。

「昨日、死んだんだ。あのドラゴンの討伐に参加していて、その時に……」

 そう言った青年の顔は悲しみで歪んでいた。

「……わかりました。任せてください」

 そう言ってすみれはそっと男性の体の心臓あたりに両手を触れる。そして呪文を唱える。

蘇生(レスシタティオ)

 その呪文と共に、男性の体が数秒淡い光に包まれて、やがて消える。

 その時、男性の肌に血色が戻り、心臓の音と呼吸の音が聞こえてきた。

 やがて男性はゆっくりと瞼を開けた。

「……あれ? 俺、死んだんじゃ……」

 自分の今の状況に困惑している男性に、青年が抱きついた。

「父さん、良かった……!」

 涙を流している息子を見て、父はある程度状況を察し、息子の背中を優しく叩く。

「そうか。お前も、頑張ってくれたんだな。……ありがとう」

 涙を流し喜び合う彼らの様子を、すみれは離れた場所でそっと見守っていた。


 すみれが本当に死んだ者を生き返らせたことは、すぐに村中に広まった。

 すみれが青年の家を出た途端、「次は自分の家族を」「今度は私の友人を」と村人たちに囲まれ、青年のように家や、亡骸が埋葬されている墓地に連れ回された。

 そこまで村の面積は広くないが、村中を走り回ったようなものだったので、かなり疲れた。だが、自分の力を必要としてくれているのは、悪い気分じゃない。

 それから夕方までに、三日以内にモンスターによって殺された村人は全員生き返らせることができた。

 その日の夜、村の中心でレッドドラゴン討伐の宴が催された。宴の場にはすみれもいた。多くの村人から「是非あんたも参加してくれ」と言われ、さすがに断れなかったのだ。

 すみれの目の前には、食べきれそうにないほど大量の料理や果物が置かれ、もてなされた。

「さあ! 遠慮せずにどんどん食べてくれ! あんたは村を救ってくれた恩人だからな!」

「あ、ありがとうございます」

 この村の村長から勧められ、すみれは恐縮しながら、手前にあるりんごを取り、一口かじる。甘さが体に染み渡って、とてもおいしい。

 そういえば、こちらの世界に来てから、何も食べてなかった。もとの世界の夕方の六時半頃に眠って、こちらの世界にはおそらくお昼くらいに来た。

 時差もあるだろうから、どれくらい時間が経っているかは分からないが、お腹はすいていたようだ。

「おっ! 美味いか。口に合って良かったよ!」

 しっかり食事を食べ始めたすみれに、村長は大らかに笑った。


 すみれが何となく宴の雰囲気を楽しんでいると、すみれの隣にいた村人が話しかけてきた。

「ここは“ヤマト”の中でも一番端の村だからな、中央の都市の騎士団に討伐の支援を頼んでも、来るまで五日はかかる」

 ヤマト。たしか、ゲームの中でプレイヤーが最初に訪れる国の名だ。あまり考えないようにしていたのだが、やはり自分はゲームの中の世界にいるようだ。

「だから、支援が来るまでは俺たちで何とかするしかないんだ」

 村人のレベルもそこまで高くないので、戦いも長引き、怪我人は数人出るし、運が悪いと死人も出る。

 村人がそう言うと、一度言葉を切ってすみれに向き直る。

「あんたが来てくれて本当に良かったよ、ありがとう」

 周囲にいた他の村人たちも、すみれに対して感謝の言葉を述べる。

 すみれは少し居心地が悪くなる。

 まだ彼らが自分のことを、騎士団の魔導士だと思っているらしい。さすがにそろそろ違うと言うべきだろう。

「……あの、私。実はその騎士団から支援にきたわけじゃないんです……」

 すみれがそう言うと、村人たちは瞠目する。

「え? 騎士団じゃない?」

 すみれは村人の反応に少し怯えながらも、はっきりと言った。

「はい。騎士団の魔導士ではありません」

「じゃあ君は偶然この村を通りかかって、助けてくれたってことなの?」

 村人からの問いにすみれは曖昧に頷く。

 本当は別の世界から来たのだが、それを言うと話がややこしくなりそうだから、そういうことにしておこう。

 すると村人たちは一層すみれに感謝の言葉を述べて、宴は更に盛り上がり、真夜中まで続いた。


 宴が終わった後、村長が家に泊めてくれることになり、すみれはそれに甘えた。千尋を探しに行くのも、夜はさすがに見つけられないだろう。

 村長の家の空いている部屋のベッドに横になり、すみれは天井を見つめる。

 まさかこんなことになるとは、思わなかった。

 今でも夢を見ているのではと思うのだが、覚める気配はなく、現実だと認めるしかない。

「……早く先輩に会わないと」

 自分が来ているのなら、きっと千尋や他のプレイヤーも来ているはずだ。それに自分はいくらレベルが高いと言っても、回復魔導士だ。一人で戦うことは出来ない。戦える人と合流できれば、安心できる。

 そしてすみれは目を閉じた。


次話は12月12日に投稿予定です。

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