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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第5章
68/89

幕間3

 本物のスグリ。本名、村主(すぐり)正吾(しょうご)は、最初にこの世界に来た。彼が、ここが「リレヴァーメン」の世界だと気づくのに、さほど時間はかからなかった。

「レベルは、ゲームと一緒。能力値は……多分一緒だな。装備も同じだ」

 自分の状態を確認すると、正吾は軽くため息をつく。

「まさかこんなことが現実で起きるなんてなぁ」

 異世界転移。最近小説でよく見ることが実際に起きるとは、全く思っていなかった。

 自分がここに来たということは、他のプレイヤーも来ている可能性が高い。いや、来ていてほしい。今では「最強の七人」の中の剣士とうたわれているが、実際は平凡なサラリーマンだ。アバターだって金髪碧眼だが、現実では黒目黒髪の、日本にどこにでもいる容姿だし。

「まずは町に行って情報収集だな」

 ここはおそらく、ヤマトの町の外れだろう。少し歩けば町人と会えるだろうし、もしかしたら他のプレイヤーがいるかもしれない。

 町の方まで歩こうとした時、正吾は背後から声をかけられた。

「こんなところに人がいるなんて珍しいな。ユネイスかアントールから来たのか?」

 振り返った正吾は青年の姿を見て驚く。

 その青年は金髪碧眼で、髪型も装備も、正吾が使用しているアバターとそっくりだった。こんな偶然もあるものなのか。

「……まあ、そんなところです」

 正吾は青年に、あまり目線を合わせないようにしながら、曖昧に答える。

 まるで自分と話をしているみたいで、落ち着かない。

 青年はそんな正吾の何かが気に入ったのか、更に声をかけてくる。

「オレの名前はイウスティオ。君の名前は?」

 名乗られてしまった。ならばこちらも名乗り返さなければ失礼だ。

「俺はスグリです。よろしく」



 少し話をした後、正吾はスグリに尋ねる。

「ところで、どうして俺に声を?」

「最初言った通り、こんな町のはずれに人がいるのが珍しいってのもあるけど、装備がオレと一緒だったからだよ」

 正吾は驚く。気づいていたのか。

「そういえば、オレを見た時、驚いていたようだけど、前にも会ったことがあったか?」

 そこにも気づかれていたか。そちらは気づいてほしくなかったのだが。

「信じてもらえないかもしれないけど……」

 そう言って、正吾はイウスティオにここにいる経緯を説明をした。



「ふーん……。つまりスグリはこことは別の世界から来て、この世界とよく似たゲームで君が使っていたアバターというものが、オレとそっくりなのか」

 イウスティオは、正吾が言ったことを何とか理解しようとしている。

「だけど……こんなこと信じられないよな。だから、この話は忘れて―――」

「いや、信じる。初対面の人間にここまで話してくれたんだから、信じるさ」

 正吾の言葉を遮って、イウスティオははっきりと言った。

「だからもっと聞かせてくれ。そのゲームの中で君がどんな活躍をしたのか。オレも、知っている範囲でこの世界のことを教えるから。君や、他に来ているかもしれないプレイヤーたちが、元の世界に戻れるように手伝うよ」

 イウスティオの言葉に嘘はないだろう。自分はまだ一人だし、現地の人が味方についてくれるのなら、心強い。

「ありがとう。すごく助かるよ」

 そう言って正吾とイウスティオは固い握手を交わした。



 道の真ん中でする話でもないだろうと、イウスティオは正吾を、落ち着ける場所へ案内する。

 ヤマトの首都まで歩き、たどり着いた目の前の建物を見て、正吾は驚く。

「ちょっと待て。ここって……」

 「リレヴァーメン」でも見たことがある。ゲームの序盤、この場所の広間で魔王討伐の依頼を受けるから。

「そう。ここは、人王とその家族が暮らす城だ」

「て、ことはイウスティオってまさか」

「ああ。人王の息子だよ」

 正吾の言葉に、イウスティオは予想通りの言葉を返した。



 人王の居城の裏側まで来て、イウスティオは石でできた塀の一部を動かす。すると、人一人が通れるほどの大きさの穴が出てきた。

「この抜け穴から出たんだ。ここから出れば、門番に見つかることもないからな!」

 得意げに笑うイウスティオに、正吾は冷や汗をかく。

 もしもここで門番とかに見つかったら、王子を誘拐した罪人として処刑されるのでは。

 そんな正吾の心配をよそに、イウスティオは先に抜け穴を通り、早く来るように手招きしている。

「……行くしかないか」

 正吾は一度深呼吸をすると、できるだけ音を立てないように抜け穴を通った。


 抜け穴を通ると、すぐに庭とイウスティオの部屋を繋ぐ大きな窓があり、そこからイウスティオの部屋に入る。

 窓のカーテンを閉めて、すぐには自分がここにいることは気づかれないだろうと、正吾は安堵する。

「じゃあ、そこに座って。早速だけど、君の話を聞かせてくれ」

 イウスティオに促され、正吾は部屋の真ん中にある上等そうな椅子に腰かける。そしてイウスティオも椅子に腰かけたのを見てから、正吾は話し始めた。



 正吾がここに来るまでのことを細かく話すと、イウスティオは一度椅子から立ち上がって、白いティーカップとソーサーを正吾と自分のところに置く。そしてティーポットから紅茶を注ぐ。

「たくさん話したから、喉が渇いただろ?」

「ありがとう」

 正直、話したからというより、いろんな緊張から喉がカラカラだった。

 正吾が紅茶を飲み、ティーカップをソーサーに置くと、イウスティオが口を開く。

「今度はオレの番だな。この世界について、知っていることを教えるよ」

 そう言ってイウスティオが話し始めた。


 イウスティオが話を始めた頃から、正吾の瞼はどんどん重くなっていた。

 話が複雑だとか、難しいわけではない。ただ、とてつもなく眠い。

 眠ってはいけないと分かっていながらも、正吾は眠りに落ちていった。






 正吾が目を覚ますと、そこはイウスティオの部屋ではなかった。

 暗い灰色の床、天井、壁。正面には鉄格子。どう見ても牢獄だ。

 どうして自分がこんなところにいるのか、正吾は全く分からず、ただただ戸惑っていると、こちらに向かってくる足音が聞こえて来た。イウスティオだ。

「イウスティオ! 俺、一体どうして」

「悪いが、君が表舞台に出ることはない」

 正吾の言葉を遮るように、イウスティオは言った。

 そして、彼は鉄格子越しに正吾に顔を近づけると、

「スグリの名はオレがもらい受ける。君よりもオレの方が()()()()()()だろ?」

「おい! どういうことだよ! 出してくれ、イウスティオ!」

 立ち去ろうとするイウスティオに正吾は怒鳴るが、イウスティオは振り返ることなく、姿を消した。


次話は4月14日に投稿予定です。

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