第63話 救出
血の痕は、牢獄がある場所から更に階段を下りたところにある、鉄製の扉の前で止まっていた。
「……開けるよ。準備はいい?」
スグリの言葉に、千尋たちが頷く。それぞれ、いつでも攻撃が出来るようにしている。
そしてスグリは、重い扉を力いっぱいに開け放つ。
そこには魔族と思しき男と、壁にナイフで右手を縫い留められて、服が赤黒く染まっているすみれがいた。彼女の口からは、少なくない量の血が零れている。
それを見た瞬間、千尋たちは怒りの沸点を超えた。
魔族の男は、スグリたちの方をゆっくりと振り向くと、心底つまらないような表情をしていた。
「見つかってしまったか。もう少し遊んでいたかったが、仕方ない。殺すか」
すみれの腹の中にあった左腕を引き抜くと、滴る血を振り払う。そして、スグリたちの方へ歩き出す。
その瞬間、すみれはそのままの状態で、スグリたちに補助魔法をかける。それと同時に彼らは魔族の男に向かって駆け出した。
その魔族の男は、魔族の中でもきっと強い部類に入るのだろう。だが、補助魔法をかけられたスグリたち相手に一人だけでは、圧倒的に不利だった。
決着はすぐについた。
HPが残り僅かとなり、仰向けに倒れたまま動けない魔族の男は、最初に見せたつまらなそうな表情のままで。
「ああ。やはり、結果が見える戦いはつまらない」
そう言った直後、千尋の持つ槍に貫かれ、絶命した。
「すみれちゃん!」
魔族の男を倒した後、千尋たちは倉庫にいるすみれに駆け寄る。すみれは既に右手のナイフを引き抜き、口から零れていた血を拭っていた。
だが、血で濡れそぼり、ぼろぼろになったワンピースと、体のあちこちにある血の痕が、とても痛々しかった。
「こんな見た目ですけど、HPはとっくに回復しているので、大丈夫ですよ」
そう言って微笑むすみれのHPのゲージは、確かに満タンだ。だが、そういう問題じゃない。
千尋は、すみれの口の下に僅かに残る血の拭った痕に、軽く手で触れる。
「さっきの血って、吐血だよね。一体何が……」
千尋から尋ねられて、すみれは一瞬考えて、言葉を選びながら答える。
「えっと、いろんな内臓を何度も潰されたからですね。でも、もう全部回復しているので、全然痛くないです」
出来るだけ淡々と答えたのは、もう問題はないという、すみれの意思表示のつもりだった。それでも、千尋たちの顔は曇るばかりだ。
どうすれば千尋たちは笑ってくれるのだろうかと、おろおろしていると、すみれはアマリリスが見覚えのあるローブを手に持っていることに気づく。
「あ、それ……」
その呟きを聞き、アマリリスは思い出した。
「そうだ。これ、置いてあったから持ってきたんだよ」
そう言ってアマリリスはすみれに持っていたローブを手渡す。
「アマリリスさん、ありがとうございます」
すみれはローブを受け取ると、すぐに纏う。ローブは、ぼろぼろになったワンピースを隠してくれて、すみれは無意識のうちにほっと息を吐き出す。
すみれがローブを纏ったのを確認すると、千尋は突然、何も言わずにすみれを抱き上げる。
「せ、先輩!? 私、自分で歩けますよ?」
突然のことに驚き、頬を赤くするすみれに、千尋は下ろす様子など全くなく、抱き上げたまま呟く。
「……だめ。しばらくはこのままでいさせて」
静かながらも有無を言わせない声に、すみれは小さく頷くと、千尋に体を預ける。
その二人を最強の七人の仲間は、誰も冷やかしたりはしなかった。
次話は3月3日に投稿予定です。




