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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第5章
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第62話 探していない場所

 忘れじの塔の中に入ったスグリたちは、多くの魔族に出迎えられた。もちろん、敵意をむき出しで。

 スグリたちは襲いかかってくる魔族を次々と倒していく。

 ゲームの時と違って、こちらへのデバフが全くないのが、とてもありがたかった。

 数十人の魔族を倒して、新たな魔族が現れないことを確認すると、スグリたちは囚われているはずのすみれを探し始めた。




 魔族の男とすみれは、牢獄がある場所から、更に階段を下りていた。人一人降りるのがやっとの幅の階段を下りていくと、目の前に鉄製の扉が現れた。

 魔族の男はすみれの手首を掴んだまま、扉を開けると、ためらうことなく中に入る。部屋の中には物が入っていると思われる箱がいくつも置かれていた。どうやらここは、倉庫らしい。

 魔族の男は扉をゆっくりと閉めた。小さな電灯が申し訳程度に倉庫の中を照らしている。

「ここならば、しばらく邪魔は入らないだろう」

 そう言って魔族の男は、すみれを壁に押し付けて、いつの間にか持っていたナイフですみれの右手のひらを縫い留めるように壁ごと突き刺した。

「……っ!」

 すみれは痛みに顔をしかめつつ、すぐに空いている左手でナイフを引き抜こうとするが、そちらも魔族の右手で押さえつけられる。

「言っただろう? お前には一生、俺たちの“遊び相手”になってもらおう、と」

 そして魔族の男は、ナイフを持っていた左手を離して、その手ですみれの体を貫いた。




 スグリたちはいくら塔の中を探しても、すみれを見つけることが出来ずにいた。

 もしかしたら、すみれはここにいないのかもしれない。

 そんな良くない想像を振り払いつつ、彼らは塔の中を探し続けた。



 忘れじの塔の最上階である十階まで探したところで、スグリたちは一度集まった。だが、その表情は皆暗い。

「……攻略班の情報を信じていないわけじゃないけど、本当にここにスミレちゃんがいるのよね?」

 タケルの問いにスグリは頷く。

「ああ。それは間違いないはずだ」

 他のプレイヤーたちは、あの場所で解放されていた。ならば、あの人数を捕らえられるような場所は、歩ける範囲ならばここしかないはずなのだ。

 だが、どこにもいない。それがスグリたちを焦らせていた。

 本当にここにすみれはいるのか。実は他のプレイヤーたちとは別の場所にいるのではないか、と。自分たちが探しに来たことに気づいて、移動させたかもしれない。

 すみれは確かにほぼ不死身だ。いくら攻撃を加えられても、すぐに回復する。それでも、それは体の話だ。心が既に死んでいるかもしれない。

 どんどん思考が暗い方に向かい、誰もが気持ちを沈ませていく。

「……や、やっぱり、スミレさんはもう……」

「縁起でもないことを言うんじゃないよ!」

 今にも泣きそうなエニシダを、アマリリスが叱咤する。

 そんな中、千尋は必死に考えを巡らせる。


 この忘れじの塔にすみれがいるのは間違いない。ならば、まだ探していない場所があるはずだ。最上階まできちんと探した。だから、他に場所なんて。


 そこで千尋はふいに思い出した。


 確か、この塔には地下があったはずだ。

「あの、皆さん―――」

 千尋は、スグリたちに声をかけた。




 忘れじの塔の奥まで行くと、地下に続く階段はすぐに見つかった。スグリたちは頷き合うと、階段を下りていった。

 ゲーム内では、地下には牢獄があるが、そこで戦うことはなかった。拷問の末に死んだと思われる者の骸骨や、アイテムがあるだけだった。

 地下に降りると、ゲームの時と同じで、牢獄があった。だが、十ほどある牢獄のほとんどに、比較的最近使われた形跡があった。垂れ下がった鎖と血の痕が、嫌な想像をさせる。

 その中で、一つの牢獄が特に酷かった。

 異常なほど飛び散った血で、牢獄の壁と床は真っ赤に汚れている。

 そんな牢獄の隅に、布のようなものが無造作に置かれていることに気づいた。隅に置かれていたからか、血はほとんどついていない。できるだけ血の痕を踏まないようにしながら拾い上げると、それは見覚えのあるローブだった。

「……これって、すみれちゃんの……」

 千尋の言葉に、他の仲間もはっとする。

 つまり、ここにいたのはすみれということになる。

 だが、すみれの姿はここにはない。

 周囲を見回すと、その牢獄の中から、廊下に血の痕が続いていた。

 血の痕を辿った先に、おそらくすみれがいる。

 千尋たちは血の痕を追って駆け出した。


次話は2月17日に投稿予定です。

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