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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第5章
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第61話 遊び足りない

 翌日の早朝、予定通りスグリたちは、すみれが囚われていると思われる「忘れじの塔」へ向けて出発した。

 ヤマトの集落から忘れじの塔まで着くのに、途中で何もなければ一時間もかからないはずだ。

 そして彼らは無言のまま、境界の森の中へと足を進めた。




 同じ頃、すみれは眠りから覚めた。昨日のように、魔族に冷水をかけられたからではない。自然と目が覚めたのだ。

 魔族がまだ来ていない牢獄の中、昨日の夜に考えていたことを思い返す。



 魔族が一度いなくなり、すみれは冷静な頭で気づいた。

 魔族が自分のもとに集まってくれれば、即死魔法を使いやすいと考えたが、千尋たちが助けに来てくれた時のことを考えていなかった。

 “最強の七人”が助けに来る。それはつまり、スグリもここに来るということだ。

 スグリが自分を殺さないのは、いくら傷を負わせたところで、すぐに回復してしまうからだ。だが、即死魔法を使った時、デメリットによって一時的に回復は不可能になってしまう。そこをスグリに狙われたら、確実に死んでしまうだろう。

 だから、即死魔法を使うのは最終手段だ。



 その時、牢獄の中に魔族がぞろぞろとやってきた。

 拷問再開の時間だ。






 忘れじの塔まで行く道中、スグリたちは境界の森で遭遇する魔物を倒しながら進んで行く。これは想定していたことだから、問題ない。予定通りに着くはずだ。


 何度か魔物を倒しながら進むこと約四十分。スグリたちは忘れじの塔の前まで辿り着いた。外に魔族はいないが、塔の中からおびただしい魔力を感じる。

「……行こう」

 スグリの言葉を合図に、彼らは忘れじの塔の門を開いた。




 肉を(えぐ)る音と、血が(したた)る音が牢獄の中で響く。

 他のプレイヤーならば死んでしまうであろう拷問の激痛に、すみれは歯を食いしばって必死に耐えていた。

 それでもまだ、痛い思いをしているのが自分だけで本当に良かった。他人の恐怖に怯える顔も、痛みに嘆く声も、見て聞くだけで心が苦しくなる。

 痛みの中で、すみれは思う。

 もう既に、他のプレイヤーたちは集落に帰れただろう。ならば、この魔族たちに従う必要はない。

 スグリは怖いが、そろそろ帰らせてもらおう。

(トラヴァ)―――」

 即死魔法を使おうとした瞬間、すみれたちがいる牢獄より上の方から、大きな音が聞こえてきた。

 突然のことに、魔族たちが拷問の手を止める。

「なんだ!?」

「敵襲か!」

「まさか、この場所を知られたのか?」

 ざわつく魔族たちの中、すみれは静かに牢獄の上を見上げている。

 おそらく、千尋たちが来てくれたのだ。

 すみれはほっと息を吐き出す。


 良かった。即死魔法を使う前に来てくれて。


 ほとんどの魔族が対応の為に牢獄から出ていく中、彼らを統率しているリーダー格の魔族が、すみれに近づく。

 すると、魔族の男はすみれを拘束していた手首の鎖を外した。

 すみれは驚く。もしかして、諦めて解放してくれるのか。

 魔族の男はすみれを立たせると、彼女の手首を掴んで牢獄の外に出る。

 地下の廊下を進む中、魔族の男は正面を見たまま言う。

「俺はまだ、遊び足りないんだ。お前には、俺が死ぬまで付き合ってもらうぞ」

 冷たい笑みが含まれた言葉に、すみれは寒気が走った。


次話は2月3日に投稿予定です。

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