第61話 遊び足りない
翌日の早朝、予定通りスグリたちは、すみれが囚われていると思われる「忘れじの塔」へ向けて出発した。
ヤマトの集落から忘れじの塔まで着くのに、途中で何もなければ一時間もかからないはずだ。
そして彼らは無言のまま、境界の森の中へと足を進めた。
同じ頃、すみれは眠りから覚めた。昨日のように、魔族に冷水をかけられたからではない。自然と目が覚めたのだ。
魔族がまだ来ていない牢獄の中、昨日の夜に考えていたことを思い返す。
魔族が一度いなくなり、すみれは冷静な頭で気づいた。
魔族が自分のもとに集まってくれれば、即死魔法を使いやすいと考えたが、千尋たちが助けに来てくれた時のことを考えていなかった。
“最強の七人”が助けに来る。それはつまり、スグリもここに来るということだ。
スグリが自分を殺さないのは、いくら傷を負わせたところで、すぐに回復してしまうからだ。だが、即死魔法を使った時、デメリットによって一時的に回復は不可能になってしまう。そこをスグリに狙われたら、確実に死んでしまうだろう。
だから、即死魔法を使うのは最終手段だ。
その時、牢獄の中に魔族がぞろぞろとやってきた。
拷問再開の時間だ。
忘れじの塔まで行く道中、スグリたちは境界の森で遭遇する魔物を倒しながら進んで行く。これは想定していたことだから、問題ない。予定通りに着くはずだ。
何度か魔物を倒しながら進むこと約四十分。スグリたちは忘れじの塔の前まで辿り着いた。外に魔族はいないが、塔の中からおびただしい魔力を感じる。
「……行こう」
スグリの言葉を合図に、彼らは忘れじの塔の門を開いた。
肉を抉る音と、血が滴る音が牢獄の中で響く。
他のプレイヤーならば死んでしまうであろう拷問の激痛に、すみれは歯を食いしばって必死に耐えていた。
それでもまだ、痛い思いをしているのが自分だけで本当に良かった。他人の恐怖に怯える顔も、痛みに嘆く声も、見て聞くだけで心が苦しくなる。
痛みの中で、すみれは思う。
もう既に、他のプレイヤーたちは集落に帰れただろう。ならば、この魔族たちに従う必要はない。
スグリは怖いが、そろそろ帰らせてもらおう。
「即―――」
即死魔法を使おうとした瞬間、すみれたちがいる牢獄より上の方から、大きな音が聞こえてきた。
突然のことに、魔族たちが拷問の手を止める。
「なんだ!?」
「敵襲か!」
「まさか、この場所を知られたのか?」
ざわつく魔族たちの中、すみれは静かに牢獄の上を見上げている。
おそらく、千尋たちが来てくれたのだ。
すみれはほっと息を吐き出す。
良かった。即死魔法を使う前に来てくれて。
ほとんどの魔族が対応の為に牢獄から出ていく中、彼らを統率しているリーダー格の魔族が、すみれに近づく。
すると、魔族の男はすみれを拘束していた手首の鎖を外した。
すみれは驚く。もしかして、諦めて解放してくれるのか。
魔族の男はすみれを立たせると、彼女の手首を掴んで牢獄の外に出る。
地下の廊下を進む中、魔族の男は正面を見たまま言う。
「俺はまだ、遊び足りないんだ。お前には、俺が死ぬまで付き合ってもらうぞ」
冷たい笑みが含まれた言葉に、すみれは寒気が走った。
次話は2月3日に投稿予定です。




