第60話 忘れじの塔
最強の七人のもとに、攻略サイト班の一人が慌てて来たのは、彼らが集まって三十分ほど経過した時だった。
「居場所が分かったのか!」
「はい! スミレさんが捕まっているのは、おそらくこの場所です!」
スグリの問いに頷き、攻略サイト班はテーブルの上に地図を広げて、印の箇所を指さす。
「ここは……“忘れじの塔”か」
その場所の名を聞いて、その場の誰もが複雑な表情を浮かべている。
「忘れじの塔」。「リレヴァーメン」の序盤ではダンジョン扱いされていない、何者かがいた痕跡だけが残る場所だ。だが、ゲームを進めていき、プレイヤーのレベルが60を超えた後に訪れると、恐るべきダンジョンに変貌している。
強力な攻撃をしてくる魔族が複数配置されている、攻略推奨レベル70以上の高難度ダンジョンで、攻略には回復魔導士が確実に必要になる。
その理由として、その塔の中では常時多くのデバフが付与されてしまうからだ。解除しきれないデバフを超える量のバフを与えられるのは、補助系統に特化した回復魔導士だけなのだ。
最強の七人でゲーム内の「忘れじの塔」を攻略した時も、やはり回復魔導士であるすみれが必要不可欠だった。今は、この世界では多くのデバフが付与されないことを祈るのみだ。
そんな中、千尋は一人考える。
即死魔法をすみれが使うことができれば、彼女を助けるのは比較的簡単になるだろう。だが、即死魔法のデメリットによって一時的ではあるが、すみれの半不死性は失われてしまう。そこをスグリが狙って、彼女を殺す可能性が高い。それはすみれも分かっているから、使わないのだ。
「今日はもう遅い。準備をした後、明日の早朝に出発しよう」
スグリの提案に千尋たちは頷いた。
深夜になったからか、魔族たちはすみれの囚われた牢獄から立ち去っていった。
一人になったすみれは、人知れず深く息を吐き出す。
「あ……」
ふと、自分が着ている装備に目が行く。
拷問をするのに邪魔だからと、ローブは牢獄の隅に無造作に置かれていて、今は少し灰色が混じったワンピースだけ身に纏っている。
それも今は、元の色が分からないほど、己の血で赤く染まっていて、ぼろ雑巾のようになっている。
そして、すみれはここから見えない、今は静かな別の牢獄に目を向ける。
「……みんな、集落に帰れたかな」
あの魔族は、自分以外の人間を解放する、と言った。
正直、魔族の言葉をどこまで信用できるか分からないが、今は信じるしかないだろう。
やがてすみれは、静かに眠りに落ちていった。
次話は1月20日に投稿予定です。




