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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第5章
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第58話 正しき勇者

 すみれは、頭から冷水をかけられて目を覚ました。

 それが、拷問再開の合図だと、すみれは無意識のうちに体を震わせていた。


 何をされても、すみれは、悲鳴は上げるも情報を口に出すことはしなかった。

「―――ならば、趣向を変えるか」

 そんな声が聞こえた直後。

 気づいた時には、魔族の男の腕は、すみれの腹を貫通していた。

「……え」

今まで感じたことのない灼熱の痛みがすみれを襲う。

腕を引き抜かれるのと同時に肺を潰されたのか、息苦しさと共に血を吐き出した。

 だがそれも、すぐに回復する。

 残っているのは、痛みの記憶と口の中の、鉄の(にお)いだけだ。

 もはやこれは拷問などではない。自分でなければ死んでしまうような、躊躇いのない攻撃だ。

「……やはり、高レベルの回復魔導士とは、凄まじいな。外傷だけでなく、損傷した臓器まで一瞬で治すのか」

 血まみれの手で、魔族の男が感嘆の声を漏らす。

 きっとこれは、高レベルの回復魔導士(じぶん)だから、やっているのだろう。だが、もしもこれを他のプレイヤーたちにもやると言うのなら、こちらが死ぬ可能性もあるが、即死魔法を使うこともいとわない。

 そう思った時、魔族の男は想像していなかったことを言い出した。

「気が変わった。お前以外の人間を、解放してやろう。情報は別の手段で得られればいい」

 すみれは思わず魔族の男を呆然と見上げる。

 解放する? 自分以外を?

「ただし、条件がある。お前には一生、俺たちの“遊び相手”になってもらおう」

 彼らの言う遊び相手は、おそらく、ほぼ死ぬことのない自分への攻撃を指すのだろう。

 正直、これ以上これが続いた場合、自分の心が耐えきれるか分からない。だが、それだけで他のプレイヤーたちを解放してくれるのなら、それが一番良い。

 敵がここに集まってくれるなら、即死魔法を使いやすいだろう。

 そんな考えを悟られないよう、すみれは魔族の男に頷く。

「…………分かりました。その条件をのみます」

 それを聞いた直後、魔族の男の瞳に、残忍な光が宿る。

「聞いたな? 他の人間を解放する。ここの位置を知られぬよう、離れた場所まで行ってから解放しろ」

 男の配下らしき魔族たちは頷くと、それぞれ他のプレイヤーたちが閉じ込められている牢獄に向かう。

 その様子を見て安堵していると、すみれの前に再び魔族の男が近づいてきて。

「道具を使うなんてもったいないと思っていたんだ。やはり素手がいい」

 その直後、すみれの体にまた激痛が走った。





 その頃、千尋は怒りのままヤマトの集落から出ようとしていた。

「待てチヒロ! どこに行くんだ!」

 そう言ってスグリは、千尋の腕を掴む。

「闇雲に探したところで、見つかるとは思えない。一旦落ち着こう」

「落ち着いてなんていられません! すみれちゃんを早く助けないと―――」

 振り向きざまにスグリに声を上げる千尋だったが、スグリの冷静な表情に黙り込む。

 スグリは、自分たちの敵だ。それは彼が魔王の死に顔に固執し続ける以上、変わることはない。だが、自身がやりたいと望む魔王討伐に障害となりそうなものには、正しく勇者として、その力を振るうだろう。

 今のスグリは、勇者の方だ。

 千尋はゆっくり深呼吸をして心を落ち着かせる。

 分かっている。冷静になるべきなのは、自分だ。

「……すみません。もう大丈夫です。すみれちゃんを助けるのを、手伝ってくれますか?」

 千尋の問いにスグリは大きく頷く。

「もちろんだ! みんなでオレの部屋に集まって、すぐに話し合いを始めよう」


次話は12月23日に投稿予定です。

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