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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第5章
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第57話 拷問

 すみれは体に無機質な冷たさを感じて、そっと目を開けた。暗い灰色の床、天井、壁。正面には鉄格子。そして、鎖で左右に繋がれた己の手首。

 前にも似たようなことがあった。同じプレイヤーであるナオの裏切りによって、「モーサ・アウェクリアス」の地下牢に閉じ込められた時だ。

 違うのは、自分を閉じ込めた相手が、魔族であること。

 その時、複数の足音が、すみれが囚われている牢獄に近づいていることに気づいた。

 やがて、牢獄の扉が軋むような音を立てながら開かれ、次々と魔族たちが入って来る。その誰もが、漆黒の衣を纏っている。

 そして、その誰もが、何に使うか想像できる武器や道具を手にしていた。

「この女は高レベルの回復魔導士だ。首を落とさない限りは死なない」

 そう言って一人の魔族の男は、すみれと目線を合わせるようにしゃがむと。

「さあ、魔王様をどうやって殺そうとしているのか、洗いざらい吐いてもらうぞ」

 その冷たい声と眼差しに、すみれは無意識のうちに体を震わせていた。



 それは、誰もが想像するようで、それよりも残酷な拷問だった。

 鞭で打たれ、手指の爪を剥がされ、焼きごてを体に押し当てられる。

 すみれは、筆舌しがたい激痛に、勝手に涙が零れてきた。

 フェンリルの群れに傷つけられた時とも、「モーサ・アウェクリアス」の信者たちにナイフを突き立てられた時とも違う、苦しみが続く痛みだ。

 死ぬことはない。そもそも、すぐに回復する。だが、少しでも苦痛のない時間があることさえ許さないと言わんばかりに、拷問は続く。

 すみれは初めて、己が回復魔導士であることを恨んだ。

 死んでしまえたら楽なのに、この体は回復してしまう。それが今は、本当に辛い。

 だが、それよりももっと辛いのは、拷問に苦しむ他の人間の叫びが聞こえてくることだ。人の悲鳴が、ここまで心に重くのしかかるものとは思わなかった。

 きっと、自分と同じ拷問を受けているのだろう。情報を言ってしまえば、逃がしてもらえるかもしれないのに、そうしないのは、やはり仲間が大切だからか。

 すみれ自身も、いくら拷問されても、情報を言うつもりはなかった。

 情報を言ってしまえば、助かったとしてもずっと後悔し続けるだろうし、何よりも、千尋たちを危険にさらしたくなかった。


 今すみれができることは、できるだけ早く助けが来るのを、祈ることだけだった。





 夕方、ヤマトの集落にいた千尋は、すみれが中々戻ってこないことに不安を感じていた。

 すみれは、他のプレイヤーたちのレベル上げについて行った。普段ならばとっくに集落に戻ってきているはずなのに、その気配すらない。

 それはすみれと一緒に行ったプレイヤーの知り合いも同じらしく、不安そうに出入り口をただじっと見つめていた。



 それから数分経った時、突然、プレイヤーの一人が集落に走って戻ってきた。

「おい! 行方不明になってた奴が一人、見つかったってよ!」

 その言葉に、その場にいるプレイヤーたちがざわめく。

「見つかったのは、一番最初に行方不明になってた奴で……」

 そう言っている間に、件のプレイヤーらしき男が、担架で運ばれてきたのが見えた。

 それを見たプレイヤーたちの多くがそれに駆け寄ってくる。その中には、すみれを除いた最強の七人の姿もある。

「彼の傷の状態は?」

「意識は辛うじてありますが、重傷です……!」

「スミレさんは!? 自然治癒じゃ話せるようになるまで時間がかかりすぎる!」

「くそっ! 他に行方不明になった奴のことが分かるかもしれないのに……!」

 周りのプレイヤーたちがそんな会話をしている中、担架に横たわっている男は、薄っすらと瞼を開く。それに最初に気づいたのは、彼の近くにいた千尋だった。

 男も千尋に気づき、意識が落ちる前に言うべきことを伝えようとする。

「……すみ、ません。俺を、解放する為に、スミレさん、たちが……」

 代わりに、連れ去られてしまった。

 それを聞いた瞬間、千尋はヤマトの集落の出入り口へ駆け出した。



次話は12月9日に投稿予定です。

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