第56話 拉致
世界が滅びるまで170日。
ヤマトの集落では、ある不穏な噂が立っていた。
「……プレイヤーの人たちが行方不明?」
千尋が確認の意味を込めて尋ねると、スグリは頷く。
「ああ。この集落だけでなく、他の集落でも何人かのプレイヤーが行方不明になっているらしいんだ」
夕食の後、スグリから自分の部屋に集まるように呼び出され、最強の七人は久しぶりに全員が同じ場所に集まっていた。
スグリからの呼び出しに警戒していたすみれと千尋だったが、スグリが話した内容は、表面上では確実にやらなければならない魔王討伐に関わることだった。
それを聞いて、すみれと千尋は今回のことがスグリの仕業ではない可能性が高いと感じた。
スグリは。イウスティオは、魔王を何度も殺したいのだ。だから、魔王討伐に必要な戦力の減少を、彼は出来るだけ避けたいだろう。彼の本性を見てしまった者を処分したのなら、また別の話になるのだが。
「魔王の討伐をよしとしない誰かが、プレイヤーたちを襲っているのかもしれない。オレたちも気を付けて行動するようにしよう」
真剣な顔をしたスグリの言葉に、その場にいた全員が頷いた。
翌日、すみれは最強の七人以外のプレイヤーたちとレベル上げの為に依頼をいくつか受けていた。
「スミレさん、今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、誘って頂き、ありがとうございました」
依頼を全て終えた夕暮れの帰り道、境界の森の近くを歩いていると、複数の魔族が境界の森の方から現れて、すみれたちを囲む。その全員がすみれたちよりも背が高く、威圧感がある。
「……私たちに、何か用ですか?」
すみれが恐怖を押し殺した声で尋ねると、魔族の男は何も言わず、ただ己の足元に目をやる。それにならって、すみれたちもそこに目を向ける。
魔族の男が地面に引きずっているものを見て、すみれたちは息を吞む。
人間だ。しかも、その恰好からして、行方不明になっているプレイヤーの一人か。足首を掴まれて引きずられているプレイヤーは、苦しそうに顔を歪めている。そして、そのHPは残り四分の一ほどまで削られていた。
「こいつを殺されたくなければ、我らについて来い。……ただし、我らを倒そうなどと愚かなことを考えているのなら、すぐに殺す」
たとえ一度、彼を殺されたとしても、蘇生魔法で生き返らせることはできる。だが、二度目はない。生き返らせたとしても、ここにいる魔族たちを倒すか、逃げ切るかしなければ、その意味がなくなってしまう。
この場にいるプレイヤーのレベルは、自分を除いて平均が62。自分の補助魔法があったとしても、果たして、魔族に人質にされているプレイヤーを殺される前に、魔族を倒せるのか。否、無理だ。
それは一緒にいたプレイヤーたちも同じ考えだったのか、すみれに無言で頷く。
ならば、こちらの答えは決まってしまっている。
「……分かりました。あなたたちに、ついて行きます。その代わりに、そこの方を解放してください」
すみれが震えるのを必死に抑えた声で言うと、魔族の男は表情を変えることなく頷く。
「いいだろう」
そう言って魔族の男は、掴んでいたプレイヤーの足首を離す。どさり、という音を立てて、プレイヤーの体が地面に落ちる。相変わらず苦しそうな顔をしているが、解放されたことに、すみれたちはひとまず安堵する。
人質だったプレイヤーが解放された後、すみれは話していた者とは別の魔族に、後ろ手に拘束される。すみれはそれを受け入れた。自分が捕まるだけで他のプレイヤーが助かるのなら、その方がずっといいと。
だが、すみれは、自分だけでなく他のプレイヤーたちまで拘束しようとしているのを見て、思わず声を上げる。
「ま、待ってください! ついて行くのは私だけにしてください! 他の方はどうか……!」
魔族の男はすみれを冷たい視線で射抜く。
「それは聞けない相談だな。情報を得る為には、数が多いに越したことはない」
すみれは押し黙る。
情報を手に入れる為だったら、確かに人数が多い方がいい。その前に行方不明になっているプレイヤーたちも、情報を聞き出す為に彼らが攫ったのかもしれない。
これ以上魔族の男に言っても意味がないのを悟り、すみれは申し訳ない気持ちで、一緒にいるプレイヤーたちを見る。
すると彼らは、眉を下げてすみれに微笑む。
「お気遣いありがとうございます。僕たちは大丈夫です。それに、仲間が一人助かったんですから、それで充分ですよ!」
そんな言葉に、すみれはいろんな気持ちがない交ぜになって泣きそうになった。
次話は11月25日に投稿予定です。




