第55話 筆頭と楔
文章を読み終わった後、すみれはフィーデスの方を無言で見る。
「この創生の書に書かれていることが本当ならば、過去にも同じことがあって、それが今、再び起きている」
そう言って、フィーデスは続ける。
「お前の考えていた通りだ。まさか、神が関わっているとは思わなかったが」
どうしたものかと、フィーデスは頭を掻いている。
「あの、神様に会って話を聞くことは、できますか?」
すみれは、無理だとは思ったが、もしかしたらと希望をこめて尋ねる。
だがフィーデスは、予想通りに渋い顔をする。
「……さすがに難しいだろうな。俺達でも、神とは一度も会ったことがない」
それはそうだ。当然のように会える神様など、滅多にいないだろう。話を聞けないのは残念だが、ある意味安心した。
過去にあったことならば、その解決方法が記されているはずなのだが、フィーデスたちによると、それがいくら探しても見つからなかったという。
「今、お前が読んだものの次の頁には、異変が解決して、世界の平穏を取り戻したというような文だけが書かれていた」
それは特に頁が破られていたり、墨で塗りつぶされていたわけではないらしい。
まさか同じことがもう一度起きると思わなかったから、書かなかったのか。それとも、最初から書かないように強要されていたのか。
「ここに記されたのは、かなり古い時代だ。当時を知る者は、魔族でもいないだろうな」
そこですみれは、創生の書に記されていた文章を思い出す。
人間で最も勇気ある者と。魔族で最も知恵ある者。
一人は世界を救う筆頭に。一人は世界を留める楔に。
おそらく、今回それに該当するのが、イウスティオと魔王だ。だが、イウスティオには、世界を救う意思がない。だから魔王が自分達を呼び寄せたのだ。イウスティオとは別の、世界を救う筆頭を得る為に。
だが、その候補だったスグリはイウスティオに成り代わられた。つまり。
「それじゃあ、ここまでってことですか?」
すみれは不安になる。
自分の言葉から、フィーデスたちがせっかく調べてくれたのに、結果的に今の状態では何もできないのではないかと思ってしまう。
そんな気持ちがすみれの顔に出ていたのか、フィーデスは首を横に振る。
「いや、諦めるのはまだ早いぞ。俺達は、創生の書以外にも、この世界で起きていることに関係ありそうな書物を読み漁ってきたからな」
そう言ってフィーデスはテーブルの上にある資料に目を向ける。
すみれははっとする。
そうだ。まだこれだけの資料があるのなら、他に世界を元に戻す手がかりが書かれているものがあるかもしれない。
すみれはフィーデスから資料を渡され、それを読み始めた。
すみれがしばらく資料を読みながら、それがこの世界を元に戻す手がかりなのかを考えていると、フィーデスに声をかけられた。
「今日はここまでにした方がよさそうだな。これ以上時間をかけていると、あの人間にこちらの動きを感づかれそうだ」
すみれははっとする。
そうだ。再び怪しまれた時の為の依頼をこなすには、そろそろやめた方がいい。
すみれが読んでいた資料を軽くまとめて整えると、フィーデスたちが隠れ家の出入り口まで一緒についてきた。そしてすみれが隠れ家から出る直前。
「次に会う日は、夢の中で伝える」
「はい、わかりました」
フィーデスの言葉に頷き、すみれは隠れ家を後にした。
次話は11月11日に投稿予定です。




