第51話 強襲
世界が滅びるまで200日。
すみれは、久しぶりに最強の七人でパーティーを組み、依頼をこなしていた。
今日の依頼は、ある村の近くにレッドドラゴンが現れて、暴れているから倒してほしいというものだった。
依頼の場所に向かい、スグリたちは最初、レッドドラゴンを倒そうとした。だが。
「なんかこいつ、苦しそうにみえない?」
アマリリスの言葉に、スグリたちは攻撃を一旦止める。確かに、レッドドラゴンの暴れ方は、どこか苦しそうに見えた。
よくよく観察してみると、レッドドラゴンの翼に一本の矢が刺さっているのが見えた。暴れているのは、あれが原因のようだ。その矢は、レッドドラゴン自身では抜けない位置に刺さっていた。
「で、でもあんな場所、どうやって抜けば……」
エニシダが杖を抱くように握りしめていると、今まで黙っていたタケルが口を開く。
「―――こういう時こそ、アタシの出番じゃない?」
そう言ってタケルは、肩に乗る大きさの青い鳥の魔物を召喚する。そしてタケルが合図をすると、青い鳥はレッドドラゴンのもとに飛び、翼に刺さっている矢を鋭いくちばしで引っこ抜いた。
一瞬レッドドラゴンは痛みで鳴き声を上げるが、矢が抜けたのが分かると、途端に大人しくなる。すかさず、すみれが回復魔法を使うと、その傷は瞬く間に治る。レッドドラゴンの瞳は澄んでいて、スグリたちと戦う気はないように見える。
「レッドドラゴン。オレたちは、お前がこれ以上村の人に危害を加えないのなら、手出ししない」
スグリがそう言うと、レッドドラゴンはお礼を言うように短く鳴くと、翼を広げて上下に動かし、やがて空に飛び上がると、そのまま何処かへ消えていった。
レッドドラゴンを見送った後、青い鳥がタケルのもとに戻って来る。
「ありがとう。助かったわ」
タケルが礼を言うと、青い鳥はピッと鳴いて一瞬で姿を消した。
依頼をした村長にその話をすると、ほっとした顔を見せて、依頼書に記されていたものより少し多めの報酬をくれた。
いつもよりも穏やかな空気でヤマトの集落に帰ろうと歩き出す中、男がすみれたちの背後に、無音で降り立つ。
微かな気配を感じ、振り返った直後、すみれの喉は白銀の刃に斬り裂かれ、鮮血が舞う。
「……すみれちゃん!」
よろめくすみれの体を、千尋が支える。そして二人を守るようにスグリとタケルが前に出て、男と対峙する。アマリリスとエニシダはすみれと千尋のそれぞれ横に立ち、リュウが背後から敵が現れるのを警戒して、彼らの後ろで弓を構える。
喉の辺りを手で押さえるすみれに、千尋は心配そうに声をかける。
「すみれちゃん、傷は……」
すみれは一呼吸置いて、押さえていた手をどける。
常人ならば、即死していただろう。だが、この世界で、高レベルの回復魔導士である彼女のHPは自動的に回復し、既に喉元に血の跡を残すのみになっていた。
「大丈夫です。もう痛みもありません」
その言葉に、千尋だけでなく他の仲間もほっとする様子を見せる。
一方で逃げる隙を無くした男は、突然狂気じみた顔で笑い声を上げて、天に向かって大声で叫ぶ。
「教祖様万歳! 「モーサ・アウェクリアス」万歳!!」
それを聞いた途端、スグリの瞳が激しい怒りの色に染まる。
「…………余計なことをしてくれたな」
スグリの呟きはあまりに小さく、その場にいる誰の耳にも入らない。
そして男と距離を一気に詰めると、男の心臓を刃で貫き、勢いよく引き抜く。
男のHPのゲージは瞬く間にゼロを示す真っ白なものになり、男はその場に倒れ、ぴくりとも動かなくなる。
剣についた血を飛ばすように軽く振るい、鞘へと納めた後、スグリがすみれに駆け寄る。
「スミレさん、怪我は大丈夫?」
スグリの視線が自分の喉元だけでなく、纏っているローブまで見ていることに気づき、すみれは安心させるように微笑む。
「私の血で汚れてしまってはいますが、もう治っているので大丈夫です」
「そっか……」
スグリは心底安堵するように、表情を崩す。
そんなスグリを見て、すみれは疑問に思った。
彼は、回復魔導士である自分を殺したいと思っているはずなのに、どうしてあんな顔で仲間のはずの男を殺し、こんな顔で心配してくるのだろうか。
次話は、9月16日に投稿予定です。




