第50話 世界が滅ぶ理由
魔王と会った翌日。すみれは、フィーデスに夢の中で教えられた場所に来ていた。
おそらくこの辺りだろうと周囲を見回していると、木の影からフィーデスが現れる。
「フィーデスさん、お久しぶりです」
「またお前に会えて嬉しいよ」
すみれが軽く会釈をすると、フィーデスは微笑みで返す。
「早速だが、話し合いをしよう。こっちだ」
そう言ってフィーデスは、近くの大木の幹に手を当てる。すると前と同じように赤い魔法陣が現れて、光り輝く。直後、すみれとフィーデスは新たな隠れ家の中にいた。
「皆さんも、お久しぶりです」
隠れ家の中で待っていた三人の魔族にも挨拶をすると、彼らはすみれに笑顔を向ける。
その様子を見て、すみれはほっとする。
フィーデスの表情が明るかったから、大丈夫だとは思っていたが、まだこの隠れ家はスグリに見つかっていないようだ。
すみれはフィーデスに促されて、隠れ家の中央にある大きなテーブルの前にある椅子に腰をかける。そしてフィーデスたちも腰を下ろす。
「それじゃあ、話し合いを始めよう」
「この世界の異変を止めて、魔王さまを救う。それが俺たちの最終目標だ」
フィーデスの言葉にすみれは頷く。こちらの最終目標である“元の世界に戻ること”も、それを解決しなければおそらく果たせない。
「そして、明らかにその障害になっているのが、イウスティオ。今はスグリと名乗っている人間の剣士だ」
すみれの脳裏に、夢の中で見たヴィオラチュームを殺すスグリが浮かんだ。
「最初は、あの人間を殺せば世界も元通りになると思っていた。だが、あの人間は、そもそもの原因ではないだろう」
フィーデスの言葉にすみれははっとする。
そうだ。スグリが魔王を殺すようになる前から、この世界は既に時間が巻き戻るようになっていた。だから、もっと別に原因があるのだ。
いや、もしかしたら、これは人為的なものなのか。
それが少し気になって、すみれはフィーデスたちに尋ねる。
「この世界に、時間を巻き戻す魔法ってありますか?」
フィーデスたちは一瞬考え込む素振りをして、答える。
「少なくとも俺は、そんな魔法を見たことも聞いたこともない」
残りの三人の魔族も、フィーデスに同意するように頷いている。
そうだ。もしも時間を巻き戻しているのが、誰かの魔法ならば、自分たちに時間が巻き戻る前の記憶が残っているのはおかしい。
そしてすみれはふと、思ったことを口にした。
「もしかして、時間が巻き戻っていることが異常なんじゃなくて、別に異常があるんじゃ……」
「どういうことだ? お前の考えを教えてくれ」
フィーデスに促されて、すみれは自分の考えを整理するように、少しずつ話し始めた。
この世界は、操られている魔王によって滅ぼされると思っていた。だが、前提が違うとしたら。この世界が、何らかの要因で滅んでしまうのだとしたら、それを防ぐ為に時間稼ぎとして、誰かがこの世界の時間が巻き戻しているのだ。
おそらく、操られた魔王の言葉から、原因は分からないが、あと七か月くらいでこの世界は滅んでしまうのだろう。それに気づいた誰かが、魔王を倒したら自動的に時間が巻き戻るようにした……と思われる。
「そんなことの為に魔王さまは、傀儡にされたというのか……!?」
すみれの考えを聞いたフィーデスは、驚きと怒りが混ざって震える声音で呟く。
「まだ私の憶測に過ぎませんが……」
そう言うすみれの言葉を、フィーデスたちは誰も否定しようとはしない。今まで考えていたことの前提が崩され、世界を巻き戻すという途方もない力を持つ者がいるという、突拍子もないすみれの考えは、下手な理想論より、よっぽど信憑性があった。
しばらく言葉を失っていたフィーデスだったが、気持ちを落ち着けるように深呼吸をすると、すみれに淡い笑みを浮かべる。
「やはり、お前と協力して正解だった。俺たちだけでは、その考えに至るまで、もっと時間がかかっていただろうからな」
「ですが、それが仮に正しかったとしても、何をすればいいのでしょうか」
すみれの言葉にフィーデスたちは考え込む。
「……情報が足りなさすぎるな。歴史書でも調べてみるか。遅くても次のループには調べた結果を共有する」
フィーデスの言葉にすみれは頷く。
「お前は、できる限りあの人間を見張ってもらいたい。こちらも出来るだけ見つからないようにはするが、その方が安心できる」
「分かりました」
フィーデスによると、魔界にある図書館や歴史書を収集している魔族のもとに行くらしい。本音を言えば、すみれも一緒に行きたかったが、魔界に人間がいてどう思われるか分からなかったので、フィーデスの言う通りにすることにした。
そしてこの日の話し合いは、これで終了した。
次話は9月2日に投稿予定です。




