第48話 杞憂
その日の夜、ヤマトの集落から離れた場所にある酒場に、スグリとナオがいた。
「例の回復魔導士と話していたようですが、何を話していたのですか?」
尋ねるナオにスグリは、酒の入ったグラスの中の氷を転がしながら答える。
「ちょっと動きが怪しかったから、探りを入れてみたんだ。まあ、杞憂だったけどね」
フィーデスたちはこの世界がループしていることを認識している。ヴィオラチュームを殺したことを知られた時点で、彼ら全員殺すことは決めていた。
今までは自分を襲撃した魔族たちを返り討ちにしてきたが、冷静な者だけが残ったのか、こちらに来なくなってしまった。だから隠れ家を変えられる前に、隠れ家に残っていた三人を殺した。
「確かあと一人くらいいたはずだから、ループ前に消しておく。彼らと彼女を会わせるわけにはいかない」
生き残った一人がスミレに助けを求めて、彼女の力で殺した仲間を生き返らせられたら、正直笑えない。それに、彼女が彼らに補助魔法をかけたら、ますます殺しにくくなってしまう。
スグリはグラスの中の酒を一気に口に流し込む。氷だけになったグラスをテーブルに置くと、その横に代金を置いて椅子から立ち上がる。
「ごちそうさま。それじゃあ、早速消してくるよ。隠れ家を変えられてなければいいんだけどね」
そう言ってスグリは、酒場から出て行った。
それから一時間ほど経ち、スグリはフィーデスたちの隠れ家まで来た。だが、そこは既にもぬけの殻だった。
「……さすがに甘かったかな」
頭を軽く掻きながら、スグリは誰もいない隠れ家の中を歩き回る。そこで気づく。
殺した三人の魔族の亡骸がない。土に埋めたか、運んだか。それとも、生き返らせられたのか。
「そこまで周到な人間には見えないけどな……」
何をしていたのかを聞かれるのを見越して、あの依頼をこなしていたのだとしたら、大したものだが。
そこでスグリはいや、と頭を振る。
憶測で考えすぎるのは良くない。今の状況で確実に分かっているのは、生き残っているはずの一人の魔族が、この隠れ家から去ったことだ。
「……ループ前に見つけられたらいいんだけど」
魔界は広い。こちらに協力してくれている仲間総出で探しても、果たして見つかるか。
スグリは星も見えない黒い空を見上げる。
夜も遅い。これ以上の成果が期待できないのなら、今日はそろそろ帰るべきだろう。
小さく息を吐くと、スグリは誰もいない隠れ家を後にした。
スグリが魔界にいる頃、すみれはフィーデスと夢の中で再会していた。
「あの人間に魔力を探知される前に済ませたい。手短に言う」
会ってすぐそう言ったフィーデスにすみれは小さく頷く。近況を報告し合う余裕はなさそうだ。
「ユネイスにある第三集落の出入り口から魔界に向かって真っ直ぐ北に来い。そこで次のループで会おう」
そこで夢は終わった。
そして世界が滅ぶまで140日。傀儡の魔王を討伐して宴の後、十回目のループに突入した。
次話は8月5日に投稿予定です。




