第44話 頑張ったね
しばらくして、千尋は水晶から右手を離した。そして少し離れたところで見守っていたすみれに近づき、彼女の頭をそっと撫でる。
「よく頑張ったね、すみれちゃん」
魔王の過去を見て、この世界の異常に抗いながら、彼女はそれを自分達に隠し通し続けた。そんな彼女を本当にすごいと感じたし、それを全く知らないでいた自分が恥ずかしくなった。
そして千尋は魔王の方を向くと、魔王に深々と頭を下げる。
「……先ほどは武器を向けてしまい、すみませんでした」
魔王は、千尋から謝られるとは思っていなかったのか、きょとんとした顔をする。だがすぐに、魔王は慈愛に満ちた表情になる。
「……本当に、そなたたちは優しいな」
こちらの事情に巻き込まれたのに、それに何も言わないでくれるのだから。
それから交流を深める為に三人で話をした後、千尋はすみれに向き直る。
「すみれちゃん、お願いがあるんだ」
すみれが不思議そうに首を傾げると、千尋は続ける。
「もしも再びループして、僕がここであったことを忘れてしまっても、またここに連れて来て、思い出させてほしい」
千尋の言葉に、すみれは大きく頷いた。
「はい、もちろんです!」
遺跡から出て、魔王と別れた千尋は、すみれに歩きながら尋ねた。
「それで、これからどうしようか?」
魔王とすみれの記憶を見たことで、魔王ではなく、スグリやこの世界を何とかしなくてはならないことは分かった。だが、それが分かっただけで具体的に何をすれば良いのかは決まっていない。
すみれは、千尋からその話をされることを予想していた為、すぐに言葉を返した。
「私は、魔王討伐派の魔族の方たちに会ってきます」
そしてすみれは続ける。
「先輩は、スグリさんを見張っていてください」
すみれの言葉に千尋は頷く。明らかに敵であるスグリを見張るのは当然のことだろう。
だが。
「それは構わないけど、すみれちゃんは一人で大丈夫?」
千尋は心配そうにすみれを見つめる。
魔王討伐派と言っても魔族であることに変わりはない。人間であるすみれをどう思っているのか分からない。すみれは即死魔法を使えるが、こちらの世界ではリスクが高いし、心配だ。
すみれは千尋を安心させるように微笑む。
「はい。ヴィオラチュームさんが言っていたことも試してみたいですし、スグリさんの動きも気になるので、別行動をした方が良いと思うんです」
そう言ったすみれの顔に、一瞬影が差す。
正直に言って、自分のことよりも、千尋の方が心配だ。スグリに殺されたら、時間が巻き戻っても生き返ることはない。もしも千尋がスグリに殺されて、蘇生魔法が間に合わなかったらと思うと、本当は一緒にいたい。
だが、スグリの動きに警戒しすぎて身動きが取れなくなったら、せっかく千尋に話したのに意味が無くなってしまう。それに千尋は最強の七人になるくらいの高レベルだ。簡単に殺されることはないはずだ。
すみれは自分に心の中でそう言い聞かせると、千尋と共にヤマトの集落に向けて歩き出した。
次話は6月10日に投稿予定です。




