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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第3章
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第41話 たった一人でできること

 ヴィオラチュームの、殺されるまでの記憶を全て見て、すみれは言葉を失った。

 彼女はずっと待っていた。自分と同じように、世界の時間が繰り返されていることに気づく人を。

 途端に、すみれは今までの己を恥じた。

 悪夢に悩み、いっそのこと他の人と同じように、ループしていることを忘れてしまいたいと思ったり。支えられたら今度は、現状維持で構わないと思ってしまったりした。

 魔王のことも。ヴィオラチュームのことも、知らなかったとはいえ、彼女たちの気持ちを全く考えていなかった。

 そんなすみれの気持ちを察したのか、ヴィオラチュームは優しく声をかける。

「一人で抱えきれるものには、限度がありますから。そこから逃げたいと思うのは、当然の感情です」

「……ありがとうございます」

 責めるどころか、認めてくれたことに、すみれは感謝の言葉を口にした。

 慰めではなく、本当にそう思って言ってくれているのを感じて、すみれの気持ちはかなり救われた。


 気持ちが落ち着いたところで、すみれは尋ねる。

「ところで、ヴィオラチュームさんと一緒にいた仲間の皆さんは……」

「おそらく他の仲間も、イウスティオさんに殺されたと思われます」

 すみれの問いにヴィオラチュームは淡々と答える。だが、言葉の端々には、悲しみや怒りなどが感じられた。

 やはりそうかと、すみれはうつむく。

 もしも彼らが生きていたとしたら、一緒に魔王討伐をしているだろうし、それがなくとも、何かしらの噂を聞いてもおかしくないはずだ。

 そこまで考えてすみれは、違和感を覚えた。

「あの、ヴィオラチュームさん」

 すみれが声をかけると、ヴィオラチュームは不思議そうに首を傾ける。

「何でしょうか」

「たとえ死んだとしても、世界の時間が巻き戻れば、生き返るのではないですか?」

 この世界のループは、今はそのまま時間が約三か月巻き戻っている。レベルはその当時まで戻り、その間なら死んだのは無かったことになっている。

 以前のループで蘇生した人も、時間が巻き戻った後は、蘇生魔法を再び使えるようになっている。それに気づいたことから、分かったのだ。

 だが、ヴィオラチュームは難しい顔をする。

「確かに、単に魔物や魔族に殺されただけなら、世界の時間が巻き戻れば生き返るでしょう。ですが、イウスティオさんに殺されると、生き返れなくなってしまうようです……私みたいに」

「そんな……」

 そう呟くすみれだったが、はっとして再びヴィオラチュームに尋ねる。

「じゃ、じゃあ、魔王さまは……」

「魔王さまだけは特別なようです。時間が巻き戻る引き金のような存在だからでしょう」

 ヴィオラチュームの言葉に、すみれはうつむく。

 そうだ。魔王を倒した後、宴が行われる真夜中に時間が巻き戻る。魔王が、この世界の時間が巻き戻る引き金なのは、間違いないだろう。

 すみれはしばらく、何も言えなかった。

 一度に、あまりに多くのことを知りすぎてしまった。自分一人では、到底抱えきれない、解決しきれないことを。

「…………私はこれから、どうすれば良いのでしょうか」

 すみれは、ヴィオラチュームに縋るような眼差しを向ける。

 イウスティオを。いや、スグリを止めなければならないが、もしも時間が巻き戻る直前に、最強の七人の誰かを殺されてしまうかもしれない。そうなったら、自分でも蘇生は叶わないだろう。

 今の状況を打破しないといけないのに、それのせいで仲間を殺されるかもしれないと思うと、怖くて仕方ない。

 そんなすみれの気持ちを察したヴィオラチュームは、少し考える素振りをした後、すみれに尋ねる。

「スミレさん、魔族の方たちと会ったことはありますか?」

 ヴィオラチュームからの突然の問いに、すみれは困惑しつつも首を横に振る。

「いえ。ありません」

「魔族の中にも少数ではありますが、魔王討伐派がいます。彼らと接触すれば、今までの流れをもしかしたら、変えられるかもしれません」

 ヴィオラチュームの言葉にすみれは瞠目する。

 確かに今まで自分は、依頼を通してこの世界の住人と交流はしてきたが、魔族とは会ったことがない。魔族は全て魔王側だと思っていたが、さすがに世界を滅ぼされたくはないということか。

 そろそろ大きく動かなければならない時なのかもしれない。

 すみれの瞳に覚悟が宿ったのを見ると、ヴィオラチュームは水晶に手を触れる。水晶は一瞬光を帯びると、この世界・ティラエアの地図を映し出していた。そして人界と魔界を分断するように伸びる境界の森を指さす。

「まず、境界の森の東側に行くと、魔族の多くが暮らす魔界に行けます。そこから境界の森に沿って北に進むと、魔王討伐派の魔族の小さな集落があります」

 そしてヴィオラチューム曰く、魔族で回復魔法を使える者はおらず、回復魔導士だと分かれば、すぐに受け入れてくれるだろうとのことだった。

「……分かりました。魔王討伐派の魔族の方たちに会ってみます」

 すみれがそう言った直後、ヴィオラチュームの姿や、周りの景色がおぼろげになっていく。どうやら、もうすぐで夢から覚めるようだ。

 名残惜しくすみれがヴィオラチュームの方を見ると、ヴィオラチュームは優しく微笑む。

「大丈夫です。この世界が元に戻るまで、私はここから消えるつもりはありませんから。そのうちまた会えますよ」

 きっと、その言葉に嘘はないのだろう。

 すみれはまた会えることに安堵して、ヴィオラチュームに微笑みを返す。

「最後に、夢から覚める前に一つだけ」

 ほとんど輪郭のない姿のヴィオラチュームが言う。

「魔王さまは、他の人に話してはいけないと、あなたに言ったようですが、いつかは信頼できる方に話しても良いと思います」

 そして続ける。

「たった一人でできることなんて、すぐに限界が来てしまいますから」

 そう言って眉を下げて微笑むヴィオラチュームの姿を最後に、すみれの意識は遠のいた。


次話は4月29日に投稿予定です。

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