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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第3章
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第40話 残夢

 ヴィオラチュームとイウスティオは、この世界を元に戻す為、原因を探し続けた。その間に何度もループを繰り返したが、彼らの心が折れることは無かった。

 一人ならば、とっくに諦めていたかもしれない。だが、二人だったから、彼らは互いに支え合い、世界を元に戻す為に奮闘した。


 そんなある時、小さな異変が起きた。


 二十回目の魔王討伐を終えた後、後方にいたヴィオラチュームは、イウスティオの傍に駆け寄った。だが、イウスティオはヴィオラチュームに気づいていないのか、その場から動こうとしない。

 魔王の亡骸をいつまでも見下ろしているイウスティオに、ヴィオラチュームはそっと声をかける。

「イウスティオさん?」

 するとイウスティオは、はっとしたように顔を上げて、ヴィオラチュームに眉を下げて微笑みかけた。

「……なんでもないよ。また次も頑張らないとだね」

 その笑みに違和感を抱きながらも、ヴィオラチュームは、これ以上詮索はしなかった。



 その後、再び世界の時が巻き戻り、魔王討伐に挑む最前線の七人が選ばれた日の夜、ヴィオラチュームたちが話し合いをしているところに、冒険者らしい男二人が突然やってきた。

「“最強の七人”だぁ? そんな寄せ集めのお前らより先に、魔王をぶっ殺してやるよ!」

「ああ! 人王(じんおう)の息子だか知らねえが、親のすねかじってる奴より、俺たちの方が強いって証明してやるぜ!」

 そんな(あお)り文句を言って、男二人は笑いながら去っていった。


 男たちが去っていった後、メジェカがため息をつきながら言った。

「ああいう手合いの奴らが出てくるのは予想していたけど」

 するとそれに同調するようにボカーテも言う。

「どうせ魔王に返り討ちに遭うのがオチなのにねえ」

 そして、明らかに喧嘩を売られたイウスティオに対して、ハスタが気を遣うように言った。

「イウスティオも気にするなよ。ただのやっかみだろうから」

 ハスタの言葉に、イウスティオは頷く。

「もちろんだよ。今は彼らに関わっている余裕はないからね」

 その時は、本当に気にしていないように、イウスティオは微笑みながら言った。


 男二人が現れてから三日後のこと。依頼をこなした後の夕方頃、寝泊まりをしている宿舎の周りを散歩していたヴィオラチュームは、誰かの声が聞こえた気がして、近くの草木が生い茂っている場所に足を踏み入れた。

 少し歩き進めると、いたのは一人だ。

 見覚えのある後ろ姿に、ヴィオラチュームは声をかける。

「……イウスティオさん?」

 振り返ったイウスティオを見て、ヴィオラチュームは瞠目する。

 彼の頬や服のあちこちに、赤いものが飛び散っていた。

 ヴィオラチュームの視線に気づいたイウスティオは、慌てることなく自分の服を確認する。

「ああ、さっき魔物を倒した時の返り血がついちゃったみたいだね」

 そう言ったイウスティオの表情は晴れやかなのに、ヴィオラチュームは、なぜか薄ら寒さを感じた。


 そして、その次のループでは、男二人が自分たちの前に現れることはなかった。



 それからまた世界の時間は巻き戻り、数えて三十回目の時、事件は起こった。

 魔王を討伐して、宴をしていた夜のことだ。

 宴の輪からこっそりと抜け出したヴィオラチュームは、星が瞬く夜空を一人で眺めていた。十度目の討伐以降から、宴にはまともに参加しなくなった。

 ヴィオラチュームにとって宴の時間は、祝うべきものなどない、己の行動を(かえり)みる時間になっていた。

 夜風が冷たくなってきたのを感じて、ヴィオラチュームは宿舎に戻ることにした。歩いていると、風がひと際強くなり、ヴィオラチュームは思わず目をつむる。

 その時。

 胸元に鋭い痛みを感じて、そこに目をやると、刃が胸から生えていた。否、背中の方から貫かれていた。

「………え」

 貫かれた箇所から衣が赤く染まっていく。ヴィオラチュームは緩慢な動作で後ろを振り向き、目を見張る。

 この身を貫いていたのは、イウスティオだった。

「どう、して……」

 かすれた声の問いに、イウスティオは淡々とした口調で答える。

「オレは気づいたら、魔王の死に際の顔に惚れていた。あの正気に戻って絶望した顔を、何度も見たいと思うようになったんだ」

 イウスティオの言葉を聞いて、ヴィオラチュームは彼の今までの態度や行動を思い起こす。

 そうか、彼はあの時から魔王の死に顔を好きになっていたのか。

 胸元が熱い。なのに、体はどんどん冷えていく。

 呼吸が浅くなっていくのを感じながら、ヴィオラチュームは、イウスティオのぞっとするほど冷たい声を聞く。

「だから、このループを終わらせるわけにはいかない。それを知っている君とは、ここでお別れだ」

 刃が一気に引き抜かれ、支えを失った体が床に崩れ落ちる。その後すぐ、イウスティオの足音が遠ざかっていった。

 体から生温かいものが流れ続けるのを感じながら、ヴィオラチュームは必死に顔を上げていた。

 寒くて、とても眠い。

 きっと目を閉じたら、そのまま目を覚ますことはないだろう。

「……残夢(サンミューム)

 ヴィオラチュームは、最期の力を振り絞って、呪文を紡ぐ。

 ここで死んでも、夢の中に人格を残す。いつかこの世界が繰り返していることに、気づく人に出会う為に。


次話は4月15日に投稿予定です。

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