第39話 「イウスティオ」
魔王がまだ、この世界に異世界の者たちを召喚するずっと前のこと。
魔王が、世界を滅ぼすという宣言をした後、世界の滅びを防ぐ為、魔王討伐派から、魔王と戦う一際強い者たちが七人選ばれた。
回復魔導士のヴィオラチューム。
槍使いのハスタ。
弓使いのアルクス。
攻撃魔導士のベネフィカスと、メジェカ。
召喚士のボカーテ。
そして、人王の息子である剣士のイウスティオ。
そこですみれは一度、水晶から手を離してしまった。その顔には、驚きと困惑の色が浮かんでいる。
ヴィオラチュームは、すみれの行動を予想していたのか、とくに驚いてはいない。
剣士のイウスティオは、スグリと顔が酷似していた。他人の空似と片付けられないほど、まるで名前を変えただけだと思うほどそっくりだった。
すみれが確認するようにヴィオラチュームの方を見ると、ヴィオラチュームは頷く。
「イウスティオさんと、あなたのパーティにいるスグリさんは、おそらく同一人物です」
ヴィオラチュームの言葉は、すみれの予想通りだった。だが、信じられない事実に、すみれの体が震える。
これが嘘だったなら、どれ程良かっただろう。だが、水晶が見せる過去に嘘がないことは、分かっていた。
きっとこれから、信じたくないスグリの過去を見ることになる。それが怖い。怖くて仕方ない。それでも。それを知らなければ、魔王を救えないし、自分たちは元の世界に戻れないだろう。
すみれは何度か深呼吸をする。速くなっていた鼓動が、少しずつ落ち着いてくる。ここは現実ではなく、夢の中だから鼓動というのも不思議な感じだが。
そしてすみれは、再び水晶に手を触れた。
魔王討伐の為に集まった七人は、確実に魔王を倒せるように、綿密な作戦を立てた。
魔王の居城を守っている、魔王側の者たちを倒す役割の兵士たちとも話し合いを重ねながら、七人は魔王討伐作戦を開始した。
激しい戦いの中、七人は魔王を倒すことができた。
だが、魔王討伐を祝して行われた宴の翌朝、世界の時は一年前に巻き戻っていた。
世界の時が巻き戻っていることを、ヴィオラチュームはすぐに気づいた。だが、他の者たちが気づいていないことを察し、しばらく様子を見ることにした。
そのうち、他の皆もこのことに気づくだろうと。
三度目の魔王討伐を終えて、再び世界の時が巻き戻っても、それに気づいている様子の者は他にいなかった。
さすがにこのままではまずいと判断したヴィオラチュームは、パーティのリーダーであるイウスティオに、相談することにした。
「……あの、イウスティオさん。ちょっといいですか」
夕食後、ヴィオラチュームは、一人でいたイウスティオに声をかけた。そして、一応他の人に聞かれないように、人気のない場所に向かう。
「それで、オレに話したいことって何かな?」
イウスティオに尋ねられ、ヴィオラチュームは話し始めた。
「信じられないかもしれないのですが……」
ヴィオラチュームが話し終えると、イウスティオはどこか安堵したような顔をして言った。
「そうか。君もこの世界の異変に気づいていたんだね」
予想外の言葉に、ヴィオラチュームは驚く。それと共に嬉しくなった。
まさか、自分以外にも気づいている人がいるなんて思わなかったから。
「このままじゃ、戦いはずっと終わらない。だから、原因を突き止めて、元の世界に戻そう」
「……はい!」
力強いイウスティオの言葉に、ヴィオラチュームも大きく頷いた。
次話は、4月1日に投稿予定です。




