第37話 仲間なんだから
魔王に会ってからも、すみれは悪夢を見続けていた。だが、他の誰にも。特に千尋に心配をかけたくないと、すみれは何事もないようにふるまい続けた。
世界が滅ぶまで、190日。
レベル上げの為に受けた依頼をこなして、ヤマトの集落に帰ってきた時、すみれは同じパーティにいたスグリに、唐突に声をかけられた。
「―――スミレさん、大丈夫?」
「え?」
すみれはスグリの言葉の意味が分からず、目をしばたたかせる。
「最近、顔色が悪いから心配しちゃってさ」
スグリにそう言われ、すみれは思わず自分の頬に触れる。
隠していたつもりだが、気づかれてしまったらしい。
もう隠せないと悟り、すみれは観念して答える。
「……毎晩、夢を見るんです。それが怖い夢なので、眠るのが怖くなってしまって」
もうあの出来事は無かったことになった。覚えているのは、自分だけだ。
だから、無いことの残滓への悩みを、覚えていない人に背負わせる必要はない。
「すみません。夢くらいで心配をかけてしまって。でも、大丈夫ですよ」
スグリを安心させるように、すみれは微笑む。だが、スグリの表情は険しいままだ。
「……無理しちゃだめだよ。たかが夢だなんて思っていないし、辛い時は辛いって言っていいんだよ」
すみれの顔に張り付けていた笑みが剥がれそうになる。
「このくらいの悪夢に、私は負けませんから」
全然平気だと、再び笑顔を張り直す。それでも、スグリは引かない。
「一人で抱え込まないでくれ。オレたちは仲間なんだから、もっと頼ってほしいんだ」
仲間という言葉に、すみれは瞠目する。
―――やってくれるよね? ウチら“友達” なんだから
過去に言われた、自分を利用する為だけの言葉とは、まるで違う。本当に、“仲間”だと思ってくれている。
スグリの言葉に、すみれは気づいたら泣いていた。
そうか。人に話すだけで、苦しみを認めてくれるだけで、こんなに心が軽くなるのか。
突然泣き出したすみれに、スグリは慌てる。
「ど、どうしたの!? オレ、何か悪いことでも言ったかな?」
おろおろするスグリに、すみれは首を横に振る。
「……いえ。ありがとうございます、スグリさん」
涙を拭いながら、すみれは久しぶりに、作らずに笑顔を浮かべることができた。
それからまた時が経ち、最強の七人で魔王を倒した。そして宴の後、世界は再びループした。
ループした最初の頃に魔王の分身と会って情報を共有し、その後はレベル上げの為に依頼をこなして、また魔王を倒す。
それを繰り返しているうちに、すみれが来てから、この世界のループは八周目に入っていた。
次話は3月4日に投稿予定です。




