第35話 悪夢
冷たい牢獄の中で、罪のない人々が殺されていく。
「……い、やぁ―――――」
瞳に涙を溜めたまま、若い女性は首筋を切り裂かれ、血の海に沈んでいった。
ばしゃり、と音を立てて骸が崩れ落ち、赤い飛沫が頬と服を濡らす。
「―――これで三十人目だ。少し休憩しよっか」
裏切り者の男は、何事もなかったかのような顔をしている。
なんで人を殺してそんな平気な顔をしていられるの?
そんな気持ちが表情に出ていたのか、男はこちらに近づいてきて、笑いながら言った。
「君がいけないんだよ。心が壊れてくれないから、彼女たちはこうなったんだ」
すみれはそこで目を覚ました。
まだ夜明け前の薄暗い部屋の中で、すみれは上体を起こすと、早鐘を打っている鼓動を落ち着けるように、何度も深呼吸をする。
ようやく落ち着いたところで、すみれは額の冷たい汗を拭う。
ここ数日、すみれは同じ夢を見ていた。
ナオによって自分の目の前で、多くの人が殺される夢。
あれはとっくに終わったことなのに、まるで忘れるのを許さないように夢に見てしまうのだ。
そのせいで最近は寝不足だ。顔色があまり良くないのか、千尋たちに依頼を受けるのをしばらく休むべきだと言われるが、すみれは首を横に振っていつも通りに依頼を受けている。
何もしないでいると、教会での出来事が頭から離れなくなってしまいそうなのだ。だから、依頼を受けている間だけは、忘れることができる。
このまま今まで通りに依頼をこなしてレベルを上げて、魔王を倒してループすればきっと、あんな悪夢を見ることもなくなる。そうに違いない。
すみれはそんな風に、何度も自分に言い聞かせた。
世界が滅ぶまで140日。すみれがこの世界に来てから、四回目の魔王討伐作戦が開始された。
「さあ! この世界を滅ぼすのを止めたくば、余を倒してみせよ!」
何度も聞いた魔王の言葉が、戦いの始まりの合図になる。
そして。
「これで、終わりだっ……!」
今回もまた、スグリがとどめを刺し、魔王は討伐された。
その日の夜、魔王討伐を祝して開かれた宴の場に、すみれはしばらく残ることにした。
魔王を倒したことを喜ぶつもりは毛頭ないが、あの悪夢を見たくないので、できるだけ起きていたいのだ。
おそらく、日付が変わると同時に、三か月前まで時間が戻る。ならば、起きていても問題ないだろうと考えたのだ。
それから今までのように千尋と途中で抜けると、長めに散歩を続けた。千尋と他愛ない話をして、時々笑って、心の底で思ってしまう。
自分も千尋たちのように、ループのことなど覚えていなければいいのに。
夜も遅くなり、千尋がすみれを宿舎の部屋まで送り届けてくれた。そして、すみれが一人になったところで、唐突に視界が暗転する。
閉じた覚えのない目を開けると、朝になっていた。それは五回目のループに突入を知らせるものだった。
次話は2月5日に投稿予定です。




