第34話 壊滅後
すみれたちが拉致された人々を、ヤマトの集落へ運んでいる頃、ナオとイウスティオが、教会からほど近い場所にある酒場で話をしていた。
「―――イウスティオさん。彼女が即死魔法を覚えているなんて、聞いていませんよ」
少し責めるような言い方に、イウスティオは眉を下げて謝る。
「ああ。それは本当に悪かったと思っているよ。まさか回復魔導士にそんな力があるなんて、思っていなかったからな」
今まで会ったことのある回復魔導士は、すみれほどのレベルではなかった。だから情報があまりにも少なかったのだ。
そのせいで、信者たちはほぼ全て死亡し、「モーサ・アウェクリアス」は事実上、壊滅してしまった。
「初めて大きく動いてみたから、“今回”は仕方ない。あの回復魔導士をどうにかするのはまた次の機会にするさ」
イウスティオの話に区切りがついたのを察したナオは、静かな口調で尋ねる。
「ところで、あの二人はどうするんですか?」
あの二人とは、すみれを攫う為に助けた大志と絵美里のことだ。
「あいつらはしばらく必要ないから、放っておく」
すみれを動揺させる目的はある程度成功したが、あまり効果があったとは言えない。ならば、余計なものは不要だ。
ここであの二人を殺すのは簡単だが、それですみれに、自分の正体に気づかれる可能性が少なからずあるのなら、リスクは冒すべきではないだろう。
「今これ以上動いても、彼女を殺すことも手元に置くのも難しいだろう。今回のループは、あとはいつも通りに動くつもりだ」
「分かりました」
イウスティオの言葉にナオは頷く。すると、イウスティオはナオに笑いかける。
「今のうちに言っておくけど、次のループでも頼むぞ」
そんなイウスティオに、ナオは苦笑いを浮かべる。
「俺はあなたみたいに、次のループ後に記憶を引き継げないのですが……」
「心配ない。オレがまた口説きに行くからさ」
そう言ってイウスティオが笑うと、ナオもつられて笑う。
きっと、その前も、もっと前も、そうやって彼に口説かれてきたのだろうから。
夕方頃、すみれたちはヤマトの集落に到着した。そこですみれはすぐに、「モーサ・アウェクリアス」によって殺された人々を蘇生魔法で生き返らせた。
彼らは生き返った直後は、殺された恐怖を思い出して混乱していたが、やがて落ち着きを取り戻すと、すみれたちに礼を言って、自分たちが暮らす町に帰っていった。
その後すみれは、最強の七人の仲間を集めて、教会へ連れ去られた時のことを話した。
話している間にすみれはその時の恐怖を思い出し、体は震え始め、顔が青くなっていった。
そんなすみれに、千尋が彼女の肩にそっと手を置いて言う。
「これ以上、無理に話さなくていいよ」
「でも……」
話さなければ。教会の中にいたプレイヤーは自分だけだ。だから、覚えている範囲は全て話さないと。
話を続けようとするすみれを、リュウも止める。
「チヒロ君の言う通りだよ。ここでお嬢さんが無理に話す必要はない。大事なことはしっかり言ってくれたからね」
リュウの言葉に、他のメンバーも同意するように頷く。
そんな彼らの気遣いに、すみれは感謝の言葉を述べる。
「……はい。皆さん、ありがとうございます」
すみれは深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。いつの間にか速くなっていた鼓動も、徐々に元の速さに戻る。
「でもまさか、プレイヤーの中にそんな人がいるなんて……」
エニシダが肩を震わせて呟く。
プレイヤーの中に、「モーサ・アウェクリアス」の方につき、罪のない人々を殺していた。それはすみれから話を聞いた今でも、信じられない。いや、信じたくないことだった。
「確かに単純に裏切ったかもしれないけど、その教祖っていうのが高レベルの魔導士とかだったら、魔法で彼を操っている可能性もあるな」
スグリが顎に手を添えて言ったことにも、千尋たちは頷く。
「リレヴァーメン」において、敵を操るような魔法や攻撃は無い。ここはリレヴァーメンの元になった世界だが、完全に同じわけではないだろう。魔法などで人を操れる可能性も考慮するべきかもしれない。
すみれは、大志と絵美里のことは話さなかった。千尋たちに話すことを止められなかったとしても、話すつもりは全くなかった。
絵美里はともかく、大志は千尋の友人だった。たとえ縁を切ったとしても、あのことを知ればきっと、千尋は悲しむと思ったのだ。
「ほら、今日はここまでにして、スミレちゃんは早めに休みなさい」
「そうそう。今回一番あんたが頑張ったんだから、しっかり休みな」
タケルとアマリリスから言われ、すみれは微笑む。
「はい、ありがとうございます」
本当に、自分は恵まれている。
最強の七人からの温かい言葉に、すみれの心も温かくなった気がした。
次話は1月22日に投稿予定です。




