第32話 即死魔法
即死魔法を、すみれは過去に一度だけ使ったことがある。
元の世界で、レベルが80になったすぐ後のことだ。
あるパーティの助っ人をした時、こんな話になった。
〈回復魔導士って、やっぱり一つも攻撃技持ってないんですか?〉
一人では戦うことができない。これが、回復魔導士をやるプレイヤーの数が少ない一番の要因だ。すみれ自身もレベル79の時までは、たとえレベル100になったとしても、補助魔法の類しか使えないのだろうと思っていた。
だが。
〈実は、今のレベルから攻撃魔法が一つ使えるようになったんです〉
そうチャットで書き、すみれは同じパーティの仲間に、自分が使用できる攻撃技の一覧を見せる。そこには一つ、単に「種類:攻撃魔法」とだけ記されていた。
このゲームでは、レベルアップにより使用できるようになる技などは、一度実際に使うまで、どのような名前で効果は分からないのだ。
他の役職ならば、攻略サイトでこのレベルから使用できるこの技に、どんな効果があるのかが分かるのだが、回復魔導士はすみれ以外に高いレベルのプレイヤーがいない。だから、どのような効果があるのかは、自分で試して知るしか方法がない。
いつかは使ってみたいが、回復魔導士の攻撃魔法など、威力はあまり大したことはないだろう。そう考えて使いたいと言い出せずにいると、パーティの仲間が、すみれにその攻撃魔法を使うように促す。
〈せっかくなんで、試してみてください!〉
〈どんなものなのか、俺たちも見てみたいです!〉
そんなチャットの言葉に背中を押されて、すみれはダンジョンの中ボスに、その攻撃魔法を使った。
すると、中ボスの魔物のHPゲージは一瞬で真っ白になり、消滅した。そしてダンジョンの途中なはずなのに、なぜか「クエストクリア」の文字が出てきて、すみれたちは戸惑った。
ダンジョンからプレイヤーたちが集まる広場に戻ってきた後、すみれはもう一度、自分が使用できる攻撃技の一覧を確認する。
その攻撃魔法の効果の詳細は、こう記されていた。
名称:即死
種類:攻撃魔法
効果:ダンジョン内の敵全てが即死する(敵の数に制限なし)
デメリット:
使用後は10ターンの行動不能、全ての強化解除、HP100まで低下
予想以上の効果にすみれは言葉を失った。
どうやら、ラスボスのところまで攻撃範囲だった為、あそこでクエストクリアになったらしい。
普通だったら、この最強とも言える攻撃に喜んだり、興奮するべきかもしれない。だが、今まで攻撃する力を全く持たなかった回復魔導士による即死魔法は、バグなのではないかと思うくらい、異様なものだった。
そう感じたのはすみれだけでなく、パーティの仲間もそうだったらしく、彼らは即死魔法について触れることはなかった。
そしてすみれも、それ以降即死魔法を使うことはなかった。
次話は12月25日に投稿予定です。




