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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第2章
33/89

第31話 きゅうさい

 すみれは体に無機質な冷たさを感じて、そっと目を開けた。暗い灰色の床、天井、壁。正面には鉄格子(てつごうし)。そして、後ろで動かせない手と開けない足。どうしてこんな状況になっているかは分からないが、今がどういう状況かは分かる。

 自分は今、手と足を縛られた状態で、牢獄に閉じ込められている。

 せめてここがどこか知りたいと、鉄格子の外を見ていると、六人の灰色のローブを来た者たちがやってきて、すみれのいる牢獄の前で止まる。

「……入っていいんだよな?」

「大丈夫だ。攻撃する力は持ってないと、教祖様はおっしゃっていた」

 そんな会話の後、灰色のローブを来た者たちは、鉄格子についた扉の鍵を開けて中に入ってきた。その内の一人が、すみれと目線を合わせるようにしゃがむ。

「おはよう。回復魔導士さん。ここは「モーサ・アウェクリアス」の教会の地下だよ」

 そう言ってその人物は被っていたフードを外す。その顔にすみれは瞠目する。自分と大志、絵美里と一緒だったナオだった。

「どうして……」

 すみれがそう呟くと、ナオはすみれを(あわ)れむような目で見つめる。

「そうだよね。その疑問はもっともだ。だから、教えてあげる」

 そう言ってナオは続ける。

「まず一つ目。俺はここの教祖様に必要とされているから、ここにいる。二つ目。パーティにいた残りの二人は俺の協力者。そして三つ目。君をここに連れてきた理由は、君を殺す、もしくは死ぬまで監禁してほしいと、教祖様から頼まれたからだよ」

 すみれは絶句した。プレイヤーの中に「モーサ・アウェクリアス」の内通者がいることもそうだが、大志と絵美里もそちら側だったことに。

 そんなすみれをよそに、ナオと信者たちはそれぞれ(ふところ)からナイフを取り出す。

「まずは試しに、君を殺してみることにするよ。……まあ、高レベルの回復魔導士である君を殺せるかは微妙だけど」

 そして彼らはすみれの体に刃を突き立て始めた。





「―――やっぱりダメか。全然死なないね」

 そう言ってナオはため息をついて、刃を突き立てるのをやめる。

 すみれが着ているローブは彼女自身の血で赤く染まっているが、すぐに回復する為、死ぬ気配は全くなかった。

「君たちもやめて。これ以上やっても意味ないよ」

 ナオの言葉に、他の者たちも刃を突き立てるのをやめる。

 ナオと信者たちがナイフをしまったのを見て、すみれはそっと息を吐き出す。

 いくらすぐに回復すると言っても、やはり刺された直後は痛いのだ。それに耐える為、ずっと歯を食いしばっていた。

 殺すのを諦めたということは、監禁するのだろうか。それならば、依頼の為に編成された他のパーティのプレイヤーたちがそのうち助けてくれるはずだ。

 だが、すみれはそんな希望を持ちつつも、不安があった。

 もしかしたら、自分のパーティのように「モーサ・アウェクリアス」の内通者が他にもいるかもしれない。自分が死ぬことはほぼないが、他のプレイヤーは回復しなければ死んでしまうのだ。

 すみれがそんなことを考えていた時、ふいに鉄格子についた扉が閉まる音が聞こえた。音の方に目を向けると、パーティにいたナオだけが牢獄の外から出ていた。そして他の信者たちにひらひらと手を振る。

「じゃあ、ちょっと待ってて。すぐに連れてくるから」

 そう言ってナオはその場から立ち去った。

 それから少しして、ナオはすみれくらいの年齢の女性を連れて戻ってきた。その女性は後ろ手に縛られていて、彼女の顔は恐怖で引きつっている。

 ナオは女性の首筋にナイフを当てる。

 すみれは顔を真っ青にする。まさか。

「やめ……」

「まずは一人目」

 そう言ってナオは、ためらうことなく女性の頸動脈を切り裂いた。彼が手を離すと、女性は無言で倒れる。首元から血が流れ、やがて止まる。

「これからずっと、君の心が壊れるまで、殺人(きゅうさい)を続ける。だから、できるだけ早く壊れてほしいな」

 そしてナオは再び、牢獄の外に出ていった。

 倒れたまま動かない女性から、すみれは目を離せずにいた。

 自分のせいで、この人は殺されてしまった。彼の言う通りなら、まだ他にも殺される人が増えてしまう。

 だが、すみれは蘇生魔法を使おうとはしなかった。

 ここで蘇生魔法を使って女性を生き返らせたとしても、自分は女性を連れてここから逃げられる状態じゃない。再び女性が殺されて、今度こそ本当に生き返らせられなくなってしまう。

 すると、聞きたくない声が聞こえてきた。

「おまたせ。二人目だよ」



 何人も。何人もなんの罪のない人たちが殺されていく。

 首から赤をまき散らしながら、(むくろ)が折り重なっていく。

 すみれは目の前で起きている残酷なことに、何もできずに苦しんでいた。

 逃げられないから、蘇生魔法が使えない。自分の無力さを嘆くことしかできなかった。

 そしてまたナオが誰かを連れてくる為に牢獄を離れた時、残っていた信者のうちの一人がすみれに言った。

「あんたのおかげで、こいつらは神々から褒美を頂戴している。そこだけはあんたに感謝しないとなぁ!」

 その時、すみれの中で何かが切れた。


「―――――即死(トラヴァメッサー)


 そんな呪文を紡いだ直後、牢獄の中にいた信者たちは、無言でぱたりと倒れていった。HPのゲージはゼロを示す真っ白な状態になっていて、すみれの荒い息遣いだけがいやに大きく聞こえた。



次話は12月11日に投稿予定です。

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