第29話 「モーサ・アウェクリアス」
世界が滅ぶまで、210日。
レベル上げの為にパーティで依頼をこなした帰り道。ヤマトの隣国であるユネイスにほど近い町を歩いている途中、すみれはふいに視線を感じて、その方向に目を向ける。そこには、すみれたちを遠巻きに見ながら、ひそひそと話している町人が複数人いた。
その町人たちはの目は、まるで嫌なものを見るかのような目をしていて、すみれは居心地の悪さからそっと目を伏せた。
「……どこから来たかも分からない浮浪者風情が」
「……魔王よりもあいつらの方が不気味だわ」
「……人王に取り入って、国を乗っ取る気なんだ」
心にもない言葉が聞こえてきて、耳を塞ぎたくなったすみれの横に、一緒のパーティにいたアマリリスが近づいて、すみれから町人たちが見えないようにする。
「……ありがとうございます」
「いいのいいの。あんまり無理しちゃダメだからね」
安心させるように笑顔を見せるアマリリスに、すみれは安堵して小さく微笑む。
「せ、先輩……ボク、早くこの町から出たいです……正直、ダンジョンよりも怖いです……」
そう言ってエニシダが、アマリリスの後ろに隠れるようにくっつく。
「はいはい。あんたの壁にもなってあげるから」
アマリリスは軽い調子で言いつつも、エニシダの右手をしっかり握った。
「もう少ししたら、町を出られるから急ぐよ」
アマリリスの言葉にすみれたちは頷き、早足で町の外に向かう。
ここには、あまりいたくない。ここには自分たちの味方はいない。
町人たちの目から逃れるように急いでいると、すみれの耳にある声が流れこんでくる。
「……おぞましい化け物め」
そんな言葉が聞こえてきて、すみれは思わず振り返る。だが、そこにはもう誰もいなかった。
すみれは得体の知れない恐ろしさを感じて、すぐに前を向いて歩き出した。
ヤマトの集落に戻ってきたすみれたちは、すぐにスグリの元に向かった。
「スグリ。ちょっと七人集まって相談したいことがあるんだけど」
アマリリスのただならぬ様子に、スグリはすぐに残りの三人も集めて話を聞くことにした。
「―――それで、さっさと戻ってきたんだ」
アマリリスが今日あったことを話すと、スグリは呟く。
「……あの町か」
「スグリ君は知っているのかい?」
リュウがた尋ねると、スグリは肯定するように頷く。
「ああ。あの町は、ある新興宗教の信者たちが多くいるらしいんだ」
その新興宗教の名は「モーサ・アウェクリアス」。「死こそ誰にも平等な、神々からの褒美」という教えで、その教えから殺人を正当化しているというもっぱらの噂だ。
「とっくに真っ黒じゃない」
タケルは嘆息して呟く。
噂が本当で、殺人を正当化しているのなら、それは既に宗教団体からは逸脱している。許されない犯罪集団だ。
「……死が褒美なら、蘇生魔法を使えるすみれちゃんは、彼らにとって忌むべき対象かもしれないね」
千尋の言葉に、すみれは町で聞いた言葉が腑に落ちた。
―――……おぞましい化け物め
そうか。あれはパーティではなく、自分だけに向けられた言葉だったのだ。いくつか依頼を受けている間に、蘇生魔法を使う回復魔導士がいるということを知られても不思議じゃない。依頼の中には少ないが、親しい人の蘇生をしてほしいというものもあるのだから。
そしてスグリは依頼書を七人で囲んでいるテーブルの上に置く。
「ちょうどあの町の隣町から依頼が来ているんだ。その宗教団体の信者による殺人がエスカレートしているらしい」
最初はその町だけだった宗教の影響が隣町まで広がっている。隣町にも信者が増え始め、信者以外の者は「褒美」として、信者たちに拉致されて、後に無惨な死体となって発見されているそうだ。
思ったよりも深刻な状況にすみれたちは沈黙する。やはりどの世界にも、間違った方向に進んで悪になってしまうものが存在するようだ。
「このままだと、あたしたちに危害を加えるかもしれないし、ちょうどよかったのかもね」
重くなった空気を軽くするようにアマリリスが言うと、その場の全員がそれに頷く。
「これ以上被害が増える前に、オレたちの手で止めよう」
次話は11月13日に投稿予定です。




