第28話 再び時は巻き戻る
魔王討伐を祝して行われた宴の翌朝、すみれはベッドから起きてすぐに、机の上にある日記帳を開いた。中身は予想通り、内容が三か月前の日付までごっそりと無くなっていた。
「……ひとまず、魔王さまと話すしかないか」
そう小さく呟き、すみれは日記帳を閉じると、着替え始めた。
部屋の外に出て、宿舎から出て、すみれはそっとヤマトの集落から出る。そして、姿を変えている魔王の分身を探す。すると、すぐに見つけた。
魔王もすぐにすみれに気づくと手招きをしてきたので、すみれは魔王に駆け寄る。
「じゃあ、行こう。お姉ちゃん」
幼い口調で魔王が言うと、すみれは小さく頷いた。
すみれと魔王は前にも来た遺跡の部屋の中に、転移魔法で入る。すみれ以外の目が無くなったからか、魔王は本来の姿に戻った。
本来の姿に戻った魔王に、すみれは深く頭を下げた。
「……ごめんなさい。また、時間が巻き戻ってしまいました」
まるで自分のせいだと言うように謝るすみれに、魔王は困ったように尋ねる。
「どうしてそなたが謝るのだ?」
「だ、だって、私しかこの状況が分かる人がいないのに、何も進展しなかったので……」
落ち込んだ様子のすみれの頭を、魔王は優しくぽんぽんと叩く。
「全く……この程度で落ち込んでいては、そなたの身が保たないぞ」
こちらとしては、この状況を共有できる存在がいるだけで、とても救われているのに。
すみれがこの世界に来てから数えて三回目。つまり前回のループで、魔王の分身と別れた後の大まかな出来事を、すみれは話した。
それを聞いた後、魔王は部屋の中央にある水晶に目を向ける。
「この水晶に両手で触れてくれ。そうすれば、そなたのこの世界での記憶が、水晶に残る」
いくら時間が巻き戻っていることを覚えていても、その中で起きた出来事を事細かに覚えていられるわけではない。だが、この水晶に記憶を残しておけば、いつでも過去の記憶を見ることが出来るのだ。
「分かりました」
すみれは頷くと、水晶に両手で触れた。すると水晶は青い光を放つ。前のように魔王の記憶が頭の中に流れ込むことはなく、やがて青い光が収束した。
その後、遺跡から出た後、魔王がすみれに言う。
「では、今回も頼むぞ。……だが、何の変化が無かったとしても、気に病むでないぞ」
「……はい。ありがとうございます」
魔王の気遣いの言葉にすみれは微笑んだ。
すみれと別れて一人になった魔王は、ゆったりと雲が流れる青空を見上げながら思う。
もしも、この世界の時間が巻き戻り、繰り返しているのが、何者かの悪意によるものならば、それを覚えているすみれは、その者にとって邪魔な存在だろう。
彼女を不安にさせたくなく、あえて言わなかったが、その者がそろそろ動き出すかもしれない。
そしてふと、魔王はあることに気づく。
分身の体でいくつもプレイヤーの集落は見に行っているが、すみれ以外の回復魔導士の姿は見たことがない。この世界にはレベル50以上のプレイヤーしか連れてきていないが、それでもすみれ以外に数人、回復魔導士はいたはずだ。
「他の回復魔導士は一体どこに……」
そんな魔王の呟きは、風に吹かれて消えていった。
次話は10月30日に投稿予定です。




