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回復魔導士は私だけ  作者: たまごがわ
第2章
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第25話 傀儡

 遥か昔。まだ王が存在していなかった頃、人間と魔族は領土を奪い合う為、争いを続けていた。魔族は強大な魔力で、人間は知恵と技術で、互いに引くことなく、争いは終わりが見えずにいた。

 終わらない争いを嘆き、それを止めたのが、一人の人間と魔族だった。

 圧倒的な力で誰も殺さず、それぞれの種族を止めた人間と魔族は、やがて人王(じんおう)、魔王と呼ばれるようになり、人界と魔界に領土を平等に分けて、それぞれ統治することになった。

 それが、現在の人王と魔王の先祖である。


「……ここまでが、現在のこの世界の()り方についての概要だ。そして、ここからは“これ”を使わせてもらう」

 そう言って魔王は、部屋の中央にある水晶に近づき、すみれを近くに来るよう促す。

 水晶の前まで来たすみれに魔王は、

「その水晶に触れるのだ。途中からだが、そこで余の過去が見れる」

と言った。

 すみれは少しためらいつつも、右手でそっと水晶に手を触れた。

 直後、水晶は真っ白な光を放ち、すみれの頭の中に映像が流れ込んできた。




 だいぶ経ってから気づいた。自分がこの世界を滅ぼすと宣言し、強き者の手によって倒される。それを何十回も繰り返していることに。

 気づくのは、いつも死ぬ直前だ。それまでは、意識に(かすみ)がかかっているような状態で、気づいた時には瀕死になっている。

 死ぬ直前になって、自分が今まで何をしてきたのか、全て思い出す。だが、それらは全く身に覚えのないことで、自分が操られているのだと自覚する。

 だが、それも一瞬だけで、すぐに傀儡(くぐつ)に戻されてしまう。

 ずっと、ずっと、ずっと。それをひたすら繰り返している。

 その間に、戦うことには慣れた。殺されることにも慣れた。だが、このまま訳も分からず死を繰り返すのは、嫌だった。

 ある時、自分は死ぬ直前、己の端末と呼べるものを作り、城から逃がした。それは戦う力を持たないが、それ以外は全く同じ、それまでの記憶を保持する分身だ。

 分身は魔王本人ではないからか、傀儡にならずに済んだ。分身は魔王が倒されるまでの間に、一つのダンジョンに隠し部屋を作り、今までの自分の記憶を残しておける水晶を設置した。これにより、魔王が倒されて世界が繰り返されても、記憶を保持し続けることが可能になったのだ。

 そしてある日、魔王の分身はこことは別の世界があることを知った。その世界にある「ゲーム」を利用することを思いつき、仮想のこちらの世界を、その世界のゲームとして作り上げた。思惑通り、その世界の人々は「ゲーム」をプレイし、魔王はプレイヤーたちをこちらの世界に連れてくることに成功した。


 これは一種の召喚魔法だ。繋がりのできた者を呼び寄せるものだが、別の世界と繋げることと、これだけの人数を召喚する大規模な召喚は、魔王だから成しえたことであろう。


 そこまでやった魔王は、あとは待つだけとなった。

 世界が繰り返されていることに気づく者が現れることを。


 魔王の過去を知り、すみれは言葉を失った。

 死ぬ間際に記憶を取り戻して、再び傀儡に戻ってしまう。それを何百回も繰り返し続けているなんて。自分ならばきっと、途中で心が折れてしまっている。

 それなのに魔王は、自分の端末を作り、仮想世界のゲームを作り、世界が繰り返していることに気づく人を待ち続けた。本当にすごいと思った。


 すみれの様子に気づいた魔王が、困ったような笑みを浮かべる。

「どうしてそなたが、そのような顔をするのだ? あんな痛み、すぐに消えるから、何も苦しくなどないぞ?」

「それでも、その瞬間は痛かったはずです……」

 瞳が潤んでいるすみれの頭を、魔王はあやすように優しく撫でる。

「……そなたは優しいな。余のせいで、こちらに来てしまったというのに」

 全く違う世界から、無関係の人間を連れてくることに、心が痛まなかったわけではない。それでもこの苦しみを終わらせたかったから、彼らの気持ちは考えないようにしていた。

 きっと、誰もがこの世界に来たかったわけではないはずだ。

 だが、彼女のような人間もいるのだと、魔王の心に仄かな温かさが宿った。


次話は9月4日に投稿予定です。

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