第24話 魔王
すみれは、女の子の後をついて行き、ヤマトの都市から離れ、境界の森のすぐ近くまでやってきた。そのすぐ傍には、白い石で造られた建物があり、そこは見覚えがあった。「白の遺跡」。攻略推奨レベル30のダンジョンだ。
だが女の子は、その遺跡の入り口には向かわず、遺跡の入り口の裏側。本来地下へと続くこのダンジョンの、地表の壁の前に来て、手のひらで触れる。
すると、赤い魔法陣が現れ、光り輝く。直後、すみれと女の子は、遺跡の中と思われる場所にいた。すみれは驚きつつも、感心する。
これが、ファンタジーでよく使われる転移というものか。
すみれが、ここが遺跡の中だと認識したのは、遺跡の外と同じ白い石で壁が造られていたからだ。正方形の部屋は、四方に篝火が置かれていて、部屋の中を淡く照らしている。そして部屋の中央には、直径二メートルほどの薄紅色の丸い水晶が浮いている。
時々、篝火の爆ぜる音が聞こえるだけの静かな場所で、沈黙を破ったのは、女の子の方だった。
「……まずは、こちらの正体を明かさないとならないね」
すると女の子は、一瞬で姿を変える。その姿を見たすみれは目を丸くする。それは、この世界を滅ぼそうと宣言した者の姿だった。
「余の名はカモミール。そなたたちの言う、魔族を導く者。魔王だ」
すみれは予想外の人物に驚くが、すぐにはっとする。
思わず一人でついてきてしまったが、戦いになる可能性を考慮していなかった。自分には、戦う力がないのに。
少し顔が青ざめているすみれに、魔王は穏やかな口調で言った。
「案ずるな。そなたを殺すつもりはない。むしろ、余を助けてほしいのだ」
すみれは魔王を見つめる。
確かに、城で見た時と違い、魔王の体からあの禍々しい魔力は放たれていない。そして何より、今の魔王には機械じみた感じがなく、生者の温かさがあった。
「助けるって一体、どういうことですか?」
魔王への恐ろしさが少し消え、すみれは尋ねる。
「そなたも気づいただろう。この世界の時間が巻き戻り、繰り返されていることを」
魔王の言葉にすみれは頷く。
そうだ。“魔王”を倒すと、来るはずの明日が来ずに、三か月前に時間が戻ってしまうのだ。
「これは夢ではない。紛れもない現実だ。……もっとも、別の世界から来たお前たちには、この世界も夢のようなものかもしれないがな」
自嘲気味の笑みを浮かべた魔王に、すみれは何も言えなくなる。確かに、自分にとってこの世界はゲームの世界のような感覚だ。だが、ゲームとは違って痛みもあるし、死ぬ可能性もある。ここは、自分たちが生きてきた世界と同じ現実なのだ。
すみれの複雑そうな表情に、魔王は話を切り替える。
「……話が逸れてしまったな。助けてほしいというのは無論、世界が繰り返すを止めてほしいということだ。だが、まずは余の昔語りをさせてくれ」
次話は8月21日に投稿予定です。




