第21話 二度目の作戦
世界が滅ぶまで、140日。
夢と同じように、雲一つない晴天に、魔王討伐の作戦は開始された。
まずは魔王の城の前で大規模な戦いをしている間に、最強の七人が城の中に侵入する。これも夢と同じようにうまくいき、静かな城の中を警戒しながら進んでいく。
「これって、もしかして罠なんじゃ……」
「いや。魔王は必ずこの城の奥にいるはずだ」
夢でも聞いたエニシダとスグリの会話を聞いたすぐ後、すみれたちの目の前には大きな扉が現れる。扉は重々しい音を立てて、ゆっくりと開く。
扉が完全に開ききった後、スグリが静かな口調で言うのだ。
「……行こう」
「―――――来たか」
厳かな声の主は、やはり幼い少女の姿をした魔王だ。
「よくぞ来たな。異邦の強者たちよ」
夢の中でも一度対峙したはずだが、彼女の体から放たれる強く禍々しい魔力は、やはり恐ろしく感じる。
「さあ! この世界を滅ぼすのを止めたくば、余を倒してみせよ!」
そこですみれは、魔王にある違和感を抱いた。
夢と同じ、一言一句違わないセリフは、どこか機械じみている。まるで、最初からそうプログラムされていたかのように、淡々と話している気がするのだ。
「―――すみれちゃん!」
千尋の言葉にすみれははっとする。そうだ。今はそんなことを考えている場合じゃない。
「補助魔法をかけます!」
自分を含めた全員に補助魔法をかけた後、千尋が、すみれの頭を優しく撫でる。
「大丈夫。必ず魔王を倒してくるから」
「……はい!」
すみれが頷くのを確認すると、千尋は他の五人と同じように武器を構えて魔王の方へ駆け出した。一人魔王から離れた場所に残っているすみれは、魔王と戦っている千尋たちを見守りながらも、時折魔王の方に視線を向ける。
どうして魔王が話している時、自分は違和感を抱いたのだろう。何か、とても重要なことのような気がするのだ。
「そなたたちも、もう分かっているだろう。そなたたちの攻撃では、余の命には届かない」
「それでも、オレたちはここで負けるわけにはいかないんだ!」
すみれは魔王に注目する。スグリのこの言葉の後、確か魔王は。
「これでもまだ、力の差を理解していないのか―――――」
その直後、魔王は突然よろめく。それから攻撃した途端、魔王のHPのゲージは三分の二まで一気に削れる。
夢ではラッキーだと思っていたが、今思うと何かがおかしい。どうして魔王はここで突然弱体化したのか。
「畳みかけるぞ!」
そんな思考をする暇などなく、すみれ以外の六人は攻撃を激化させ、やがて魔王は片膝をつく。魔王のHPのゲージはほとんど真っ白だ。
「これで、終わりだっ……!」
そんな言葉と共に、スグリは魔王の胸元に刃を突き立てた。
「あ――――」
そんな微かな声を上げた直後、魔王の瞳に小さな光が戻るのを、すみれは確かに見た。
魔王はすみれの方に目だけ向けて、口を動かしている。だが、それは音になることなく、彼女はその場で倒れた。
「……終わったのか?」
リュウが夢と同じように呟く。未だに魔王を倒した実感が沸かず、少し困惑した空気になるが、スグリの言葉で空気が変わる。
「魔王との戦いは終わったんだ! もうこの世界の滅びに怯えることはないし、オレたちは元の世界に帰ることが出来るんだ!」
みんなが喜びに浸る中、すみれは言い知れない不安を感じていた。
確かに、魔王は倒した。だが、本当に魔王を倒すべきだったのだろうか。あの操り人形のような魔王は、死ぬ直前になって正気を取り戻したように見えた。
「……あなたは、何を私に伝えようとしたの?」
倒れたまま動くことのない魔王に、すみれは答えが来ることのない問いかけをする。
それから少しして、すみれは千尋のもとに行き、一応確認する。
「先輩、お怪我はありませんか?」
「うん。すみれちゃんがサポートしてくれたおかげだね」
いつもと変わらない様子の千尋に、すみれは安堵しつつも、あることを聞きたくなった。
「あの、先輩……」
「どうしたの? すみれちゃん」
これで、本当に元の世界に戻れるのでしょうか
そう言おうとしたが、千尋はとても嬉しそうな顔を見て、夢と同じセリフを言った。
「これで、やっと元の世界に戻れるんですね……」
「うん、やっと帰れるんだ」
微笑む千尋に、すみれは曖昧な笑みを返す。
先輩が喜んでいるのに、そこに水を差してはいけない。
「じゃあそろそろ、集落に戻ろうか」
千尋の言葉にすみれは頷き、主のいなくなった城から出て行った。
次話は、7月10日に投稿予定です。




