第20話 夢
三か月前の日付の内容までごっそりと無くなった日記と、84に戻った自分のレベルを見て、すみれはある一つの可能性を呟く。
「……今までのって、全部夢?」
三か月間のみんなのレベル上げも、魔王を倒したことも、昨日までのことが実は夢だったのだろうか。
確かめなければ。
すみれは急いで着替え、乱れた髪を整えると、部屋の外を飛び出した。
世界が滅ぶまで、229日。
宿舎から出たすみれは、ある人物を探して集落を進む。少しして、その後ろ姿を見つけた。
「先輩……!」
すみれの声に、千尋が振り返り、優しい笑みを浮かべる。
「おはよう、すみれちゃん」
「おはようございます」
いつも通りの千尋に安堵しつつも、すみれはあることに気づいて言葉を継げなくなる。
どうやって聞くのだ。そのまま「魔王を倒したのって、夢ですか?」などと聞くのか。魔王を倒したのが現実ならば良いが、本当に夢だった場合は、おかしなことを聞いていることになってしまう。
すみれが考え込んでいると、千尋が気になって声をかけた。
「どうしたの? 何かあった?」
はっとして顔を上げると、すみれは何とか言葉をひねり出して千尋に言った。
「三か月間みんなでレベル上げを頑張って、魔王を倒したっていう夢を見たので……」
あまり違和感のない言い方ができたとすみれはほっとする。そして千尋の言葉を待つ。これで、昨日魔王を倒したことが現実か夢かが分かる。
「そっか。それが夢じゃなくて本当になるように、みんなで頑張らないとだね!」
すみれは分かってしまった。
そうか。あれはやはり夢だったのか。あれほど鮮明でも、夢だったのだ。
「……はい! 今日からのレベル上げ、一緒に頑張りましょう!」
夢だったことを残念に思いつつも、すみれはそれを顔に出さないように笑顔で言った。
その日の夕方、レベル上げから帰ってきたすみれは、ヤマトの集落の前に、小さな女の子がいることに気づく。明るい茶髪を左右で三つ編みにして、緑の大きな瞳でこちらをじっと見つめている。年齢は七、八歳くらいか。プレイヤーでは無さそうだ。
誰だろう。会ったことは無いと思うが。
すみれもその場でじっと見つめていると、やがて女の子は興味を無くしたように、そこから立ち去った。
それからすみれは三か月間、夢と同じようにレベル上げをした。
魔王討伐作戦の前夜、寝る前に日記を書いたすみれは、三か月前のことを考え、思う。
この三か月間の出来事は、全て夢で見た通りだった。もしかしたらあれは、とても長い予知夢だったのかもしれない。自分たちが住んでいたのと別の世界に来てしまったのだから、そんな予知夢を見てもおかしくはないだろう。
魔王を倒したことを、今度は夢ではなく、現実にする。
そう決意して、すみれはベッドに横になった。
次話は6月26日に投稿予定です。




