第19話 宴
その日の夜、魔王討伐を祝して、宴が催された。
この世界の民とプレイヤー関係なく、世界の滅びを防いだことを喜んでいた。
特に魔王を倒した最強の七人には、プレイヤーとこの世界の住人たちが群がり、酒や食べ物を勧めていた。
それはすみれも例外ではなく、しばらくは勧められるままに料理を食べていたが、やがてお腹がいっぱいになってしまった。それでも勧める人は減らず、断り切れなくなっていた時、千尋が助け船をだしてくれた。
「ごめん。ちょっとお腹がいっぱいになっちゃった。腹ごなしに、その辺を散歩してくるね」
そう言って千尋は、すみれの手を引いて、その場から離れた。
少し歩いたところで、すみれは千尋に礼を言う。
「先輩、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「僕もちょうど抜けたいと思ってたからね。すみれちゃんのおかげで助かったよ」
いたずらっぽく片目をつむる千尋に、すみれは小さく笑みをこぼす。
それからしばらく、すみれと千尋は他愛のない話をしながら、散歩をした。魔王を倒したから、そう遠くないうちに元の世界に戻れるはずだ。だからいつ戻ってもいいように、あえてこの世界での思い出を増やそうとはしなかった。
気づくと夜も更けてきて、すみれは思わず小さくあくびをする。
「眠い? 今日は確かに疲れたもんね」
千尋の言葉にすみれは正直に頷く。
「じゃあ散歩はこれくらいで切り上げようか。部屋まで送るよ」
「はい……ありがとうございます」
すみれとしては正直のところ、もう少し千尋と一緒にいたかったが、眠気が勝っている。ここは千尋の言葉に甘えることにした。
住んでいる宿舎の、すみれの部屋の前まで二人で行くと、千尋はすみれの頭を撫でて微笑む。
「おやすみ。ゆっくり休んでね」
「はい。おやすみなさい」
千尋を見送り、部屋に入ったすみれはベッドに倒れこむ。
とても疲れた。正直に言って、自分は武器を持って戦っていたわけではないが、魔王と同じ場所にいただけで、どっと疲れが出たのだ。
ベッドの柔らかさで、すみれの眠気はピークに達する。
すみれはそのまま、深い眠りに沈んでいった。
翌朝、すみれは窓から差し込む陽の光で目を覚ました。
眠い目をこすりながら、すみれはあることを思い出す。
そういえば、普段寝る前に書いていた日記を書くのをすっかり忘れていた。
すみれは集落の方に来てから、日記をつけるようにしていた。こちらの世界に来てからどれくらい経ったのか、魔王と戦うまであとどれくらいか分かるようにする為、毎日寝る前にその日何があったのかを細かく書いているのだ。
すみれはベッドから起き上がると、机に置いてある日記帳を開く。が、中身を見てすみれは困惑する。
「……あれ?」
一昨日までは確かに書いていた日記の内容が、三ヶ月前の日付までごっそりと無くなっていた。
次話は6月12日に投稿予定です。




