第10話 再会
気がつけば、夕方になっていた。夕日が森の木々を赤く染める中、すみれはシオンをフェンリルから守り続けていた。
よほどお腹がすいているのか、フェンリルは傷つけてもすぐに回復するすみれに、諦めることなく爪を立て続ける。
その時、遠くの方からこちらに向かってくる複数の足音が聞こえてきた。
もしかしたら、誰かが自分たちの不在に気づいて、助けに来てくれたのかもしれない。
だが、こちらに来た足音の主を見たすみれは言葉を失う。
来たのは村人ではなく、他のフェンリルだった。どうやら血の臭いに誘われてやってきたらしく、ここにいるフェンリルと同様、その鋭い歯が並んだ口からはよだれが滴っていた。
そしてフェンリルたちは一度爪を立てるのをやめると、すみれからシオンを引き離そうとし始める。殺せないすみれではなく、既に死んでいるシオンを食べようとしているのだ。
「やめて! この子を、あなたたちに食べさせるわけにはいかないの!」
すみれは思わず声を上げるが、引き離す力が弱まることはない。
しばらく耐えていたすみれだったが、やがてフェンリルたちの強い力で、シオンと引き離され、少し離れた場所に放り投げられる。
すみれは体を打ちつけた痛みに顔をしかめつつも、すぐに体を起こし、シオンに群がるフェンリルたちに向かって駆け出す。
「やめてー!!」
フェンリルたちが大きく口を開けたその時。
突如、すみれの前に何者かが現れ、シオンを喰らおうとしていたフェンリルたちを大きな槍で薙ぎ払う。予想していなかった攻撃にフェンリルたちは子犬のような悲鳴を上げてもんどりうつ。
「―――大丈夫かい?」
そう言って振り返る人物に、すみれは驚く。
「先輩!?」
助けに来たのは、千尋だった。
千尋も、助けたのがすみれだと気づいて驚く。
「すみれちゃん!?」
だが、フェンリルたちが唸り声を上げて立ち上がってくるのを見て、千尋は槍を構え直す。
「……話したいことはいろいろあるけど、まずはこいつらを倒してからだね」
そして千尋は瞬く間にフェンリルを全て倒した。
フェンリルが全て動かなくなったことを確認すると、千尋はすみれを振り返って、ふわりと微笑む。
「怪我はない?」
「はい! 私は大丈夫です」
すみれが無事なのを確認して、千尋はほっとする。だがすぐにすみれの腕の中にいるシオンに目を向ける。
「その子は……」
千尋に聞かれ、すみれは頷く。
「さっきのフェンリルに……でも、まだ間に合います」
すみれの言葉の意味を察した千尋は頷くと、シオンを軽々と背負う。
「じゃあ村に急ごう。すみれちゃんの頑張りを無駄にしたくないからね」
そしてすみれと千尋は村へと急いだ。
すみれと千尋が村に戻ると、多くの村人が彼らを待っていて、千尋に背負われた、血塗れのシオンに村人たちは顔を真っ青にする。そんな村人たちにすみれは言う。
「大丈夫です。必ずシオン君を生き返らせます」
すみれの真剣な表情に村人たちは頷く。彼女に任せれば、きっとシオンは生き返る。
村人が持ってきた布の上にシオンを横たえると、すみれはそっと彼の体の心臓あたりに両手を触れる。そして呪文を唱える。
「蘇生」
その呪文と共に、シオンの体が数秒淡い光に包まれて、やがて消える。すると彼の肌に血色が戻り、心臓の音と呼吸の音が聞こえてきた。
やがてシオンはゆっくりと瞼を開けた。
「……あれ? 僕……」
自分の状況が分からず、シオンは困惑していた。だが、直後に村人たちの歓声と自分を抱きしめる祖父の姿で、ようやく分かった。
「じいちゃん……」
そこでシオンはぼろぼろと涙を零し、祖父を抱きしめた。
その日の夜、すみれと千尋はシオンとその祖父の家で夕食をごちそうになっていた。
お礼に是非食べていってほしいと、シオンとその祖父に言われたのだ。
夕食後、泊めてもらっている村長の家に帰ろうとすると、シオンが抱きついてきて、寂しそうに言う。
「もう少し、一緒にいて?」
それまですみれに対して冷たい態度をとっていたシオンだったが、それが嘘のように今はすみれに甘えている。
その姿が愛おしくて、すみれと千尋はシオンが寝るまで一緒にいた。
シオンが眠った後、村長の家の部屋で千尋はすみれに、この村に来た経緯を話し始めた。
次話は1月23日に投稿予定です。




