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繰り返す春の中で  作者: 理春
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第七章

その後は、いつも泊る時に使わせてもらってる部屋に戻って、しばらく小夜香ちゃんの反応を思い出してニヤニヤしていた。


「可愛いなぁ小夜香ちゃん・・・。」


無意識でそんな言葉が漏れる。

たぶんもう、俺の脳はイくとことまでイってしまったし、好きという気持ちを伝え終わってしまえば、もう隠さなくていいわけだから、明日からは露骨な態度になりそうだ。

少し前、俺の部屋で不用心にも小夜香ちゃんが転寝していた時、彼女の寝顔を盗撮したことがあって、思い出したようにそれをスマホで見返した。

そしてベッドに横になってようやく、俺は自分の頭の中がふわふわしていることに気付く。

けどそれと同時に、これからどう好感度を上げて行こうか・・・という課題にもぶち当たる。

異性として意識させることと、自分の気持ちを伝えることはクリアした。

じゃあ次は・・・?

小夜香ちゃんの寝顔写真をそっと閉じて、布団にくるまって考えた。


「小夜香ちゃん・・・もう寝たのかな・・・。」


焼き付いた可愛い寝顔を思い出すと、途端に眠気に襲われてそのまま寝落ちしてしまった。


翌日、コンコンとドアをノックする音で目を覚ました。


「んあ・・・・は~い・・・」


返事をするとゆっくりドアが開いて、晶がそっと顔を出した。


「咲夜くん、おはよう。ごめんね、起こしちゃった?」


「いや、いいけど・・・。え、俺めっちゃ寝坊してる?」


「ううん、まだ八時半だよ。休日だしまだ眠いなら寝てていいんだけど・・・。ちょっと聞きたいことあって。」


晶はそう言いながら、ドアを半開きにしたまま覗いていた。


「ん?うん・・・いいよ?どうぞ。」


俺がベッドから足を出して座ると、晶はまたゆっくりドアを閉めて俺に歩み寄った。


「あのね、昨夜小夜香ちゃんが寝室に戻ってきた後、妙にずっとドキマギしててね・・・。どうしたの?って聞いても、咲夜くんが・・・違うの!何でもない!!って言うばっかりで可愛くて・・・じゃなくて教えてくれなくてね?顔を赤くしてソワソワしたり、結局布団を頭までかぶって何も話してくれなくてね?すごくかわい・・・じゃなくて気になって様子を見てたんだけど、そのまま寝ちゃったの・・・。」


それを聞いて俺は思わず笑みが漏れた。


「ふふ・・・そっか・・・。」


俺がくつくつ笑っていると、俺の前に座り込んだ晶は困ったように上目遣いで見た。


「もう・・・笑ってないで教えて。どうやってあんな可愛いリアクションする小夜香ちゃん・・・じゃなくて、何か困らせるようなこと言ったの?」


「晶・・・心の声漏れすぎだよ。」


俺も晶のがわになりそうではあるけど・・・。


「・・・告白したんだよ。女の子として、大好きだよって。」


立ち上がって髪の毛をかき上げながら、部屋の中にある洗面所に向かった。

だけど晶からの反応は何も返ってこない。

俺が顔を洗って、タオルを取りながらチラリと見ると、両手で口元を抑えて何か堪えている様子だった。


「・・・・どうしたの?」


「と・・・・お・・・推しカプ・・・!」


「は?え・・・・?なに?」


俺が聞き返すと、晶はハッとしていつもの優しい笑みを浮かべた。


「何でもない!そうなんだね!おめでとう!お付き合いすることになったってことだよね?」


目をキラキラさせて言う晶に、苦笑いを返した。


「いや・・・俺が一方的に告白しただけで、別に返事はいらないって言ったんだよ。聞きたくないわけじゃないけどさ・・・小夜香ちゃんの気持ちが整ったら聞かせてもらえるかもしれないけど。」


俺が鏡を見ながら歯磨きを始めると、晶はふぅんとちょっと考え込んでいた。


「そうなんだ・・・。」


「あ・・・てか昨日ごめんね・・・せっかくの誕生日会に、喧嘩してるとこ見せちゃって・・・。」


俺がそう言うと、晶はポカンとした後、いつもの笑顔を向けた。


「いいよ、喧嘩・・・ではないでしょ?ちょっと意見が食い違っただけだと思うし、お互い悪いなって思ってるんだから。」


晶は俺のベッドの布団を整えてそっと座った。


「んでも・・・渚のことに言及しちゃったからさ・・・晶に嫌な思いさせちゃったな、と思って。」


「ふふ・・・優しいね咲夜くんは。嫌な思いなんてしないよ、咲夜くんが彼らのこと苦手なのは知ってるし、受け入れられないものや考えを、お願いだから理解して、なんて言えないし、思ってないよ。」


歯磨きを終えて口元を拭いて、小さくため息を落とす。


「はぁ・・・まぁ、そうだね。というか・・・」


俺はベッドに座った晶に歩み寄って、手を差し出した。


「ドアを閉めて、男と二人っきりの状態なのに、ベッドに座ったりしない!俺はそんなつもりないけど、他の男はわかんないよ?それと・・・業者が来た時とかも、男の場合は玄関開けてなきゃダメなんだよ?」


「・・・そうなの?」


「当たり前でしょ、もう・・・そういう一般常識は、小夜香ちゃんもだけど、二人とも欠けてるなぁ・・・。」


俺が呆れたように言うと、困ったように晶は笑って手を取った。

するとまたノックの音がして、ガチャとドアが開いた。


「咲夜くん・・・起きてる?」


振り返ると小夜香ちゃんがドアの隙間からひょこっと顔を出して、俺たち二人を見て唖然としていた。


「小夜香ちゃん、おはよう。さっき起きたよ。」


「私が起こしに来たの、ごめんね小夜香ちゃん、朝ごはんの用意任せちゃって。」


そう言いながら晶がパタパタ小夜香ちゃんに歩み寄り、もう出来てるから、と俺に告げて部屋を出て行った。

残された小夜香ちゃんが、少し困った顔で俺を見つめた。


「・・・なあに?」


「・・・晶ちゃんと何してたの?」


「何って、話してただけだよ。」


俺が伸びをしてから小夜香ちゃんに歩み寄ると、何故かぷいっと顔を逸らされた。


「・・・え・・・何?」


「・・・何・・・話してたの?」


どうしてか不貞腐れたままの小夜香ちゃん。


「・・・昨日小夜香ちゃんに告白した、っていう話を。」


「そ・・・なんだ・・・。」


それを聞いて小夜香ちゃんは少し狼狽えた様子で、前髪を触る癖を見せた。


「・・・小夜香ちゃん、着替えたいから閉めてもいい?見たいなら別に部屋にいてもいいけど。」


俺が頭上から囁くと、逸らせた顔をようやく俺に向けて、真っ赤な顔で怒りだした。


「み・・・・!見たいなんて思うわけないでしょ!?」


それだけ言うと、小夜香ちゃんはドアから離れて走ってリビングへと戻っていった。


「・・・ホント、からかい甲斐あるなぁ・・・。」


脳内がまた、可愛いで満たされていく。

その後朝食を摂っている間も、小夜香ちゃんは恥ずかしそうにして、目を合わせてくれなかった。

その様ですら愛おしくて、改めて小夜香ちゃんは子供らしい子だなぁとも思った。

ご飯を終えると、各々が片付けと掃除に徹した。

家の中は広いので、俺と小夜香ちゃんが泊まりに来たタイミングではいつも、使っていない部屋や客間も含めて、まとめて掃除をしていた。

俺が二階の広い廊下に、お掃除ロボットを出発させ、自分が寝起きした部屋に掃除機をかけた後、燃えるゴミを回収しにきた美咲に聞いた。


「ねぇ、このうちは二人が結婚してもそのまま住む予定なの?」


するとゴミ袋を広げた美咲は、ゆっくり腰を上げてベランダに向かいながら答えた。


「ん~・・・さすがに広すぎるから引っ越そうかと思ってる。とりあえずは元々晶が住んでいた、松崎家の別宅に。」


「あ~・・・こっからわりと近いよね。」


ベランダを開けて外を眺め、美咲は少し悩みながら続けた。


「どちらも交通の便が悪いということもないしな。だけど・・・子供が出来た時のことを考えると、子育てにいい環境なのかどうかも考えて・・・場所を選ぶべきだな、とも思う。」


「・・・まぁそうだね・・・。」


二人は同棲するタイミングで婚約したようだけど、19で結婚と子育てのことまで考えてるってすごいな・・・と思ってしまった。

と言っても、御三家の後続者は元々結婚するのが早いし、父さんも俺たちが産まれた頃は二十歳はたちとかだったはずだ。


「結婚かぁ・・・。」


俺がそう呟いて掃除機をしまいながらいると、美咲は布団を干しながら尋ねた。


「咲夜は・・・小夜香ちゃんと結婚する気でいるのか?」


「・・・あのねぇ・・・俺まだ告白しただけで付き合えてもないんですけど?」


「告白したのか、一歩進んだな。」


何気なくそう言われて、俺は昨日のことを思い出した。


「まぁ・・・。自分と同じ遺伝子に背中押されたらね・・・。」


「ふ・・・何だその言い方。」


「俺はもちろんこれから先、小夜香ちゃん以外の人は考えられないから結婚したいけど・・・まず付き合えるのかな、っていう課題があんの・・・。二人の門出は祝う気でいるけど、急かさないでよね・・・。」


俺がそう言うと、開けっぱなしにしていたドアの向こうから、そっと晶がニコニコしながら覗いていることに気付いた。

すると同じくそれに気づいた美咲が、晶に笑みを返して、ゴミ袋を持って部屋を後にした。


「咲夜くん、お掃除ありがとう。小夜香ちゃんにね、お庭の水やり頼んだの。結構広くて大変だと思うから、手伝ってあげて。」


「あ~うん、オッケー。」


寝室を出て、階段を降りて、冷えた玄関のノブを取って開けると、外の水場でじょうろに水をくむ小夜香ちゃんの後ろ姿が見えた。

それほど身長が低いわけではないけど、しゃがんだ小夜香ちゃんはとても小さく見えた。

それを見て、また・・・小さい頃、独りぼっちで部屋にいた小夜香ちゃんのことを思い出す。


「小夜香ちゃん」


俺が声をかけると、彼女はハッとして振り返った。


「咲夜くん・・・」


「水やり手伝うよ。ここ広いし・・・。改めて見ると、色々植えてるんだなぁ・・・。」


家を囲うように庭がある中で、玄関前は季節の花から、ちょっとした家庭菜園まであって、鮮やかな実りを見せていた。


「全部二人が植えたのかな・・・。」


俺が見渡しながら呟くと、小夜香ちゃんは蛇口を止めて言った


「元々植えてあった花も多いって晶ちゃん言ってたよ。どのうちもそうみたいだけど、使用人の人たちが定期的にお世話しに来てたみたい。」


「なるほどね。」


小夜香ちゃんはその細い腕で大きなじょうろを持ち上げようとしたので、慌てて歩み寄った。


「ああ、いいよ・・・俺がやるから。重いでしょ。」


「あ、ありがとう・・・。」


じょうろを受け取って奥の方の植物に水やりを始めると、少し黙っていた小夜香ちゃんが俺の背中に声をかけた。


「あのさ、一昨日公園で会った時、咲夜くんお友達と一緒に居たでしょ?」


「ん?あ~、薫ね。高校の時のさ、部活の後輩なんだよ。」


俺が背を向けたまま答えると、小夜香ちゃんは何気ない質問のように尋ねた。


「そうなんだ。あの子は・・・咲夜くんのこと好きなのかな。」


俺がじょうろから出る水を思わず止めると、小夜香ちゃんが俺の隣に来て顔を覗き込んだ。


「・・・どうして?」


「ん・・・何となく、そんな感じがしたの。」


出た・・・小夜香ちゃんの鋭い勘・・・。

恐らく彼女の中でそう感じた理由はいくつかあるんだろうけど、小夜香ちゃんの特技は、空気を感じ取る力だ。

説明が難しいような空気感を察知したのかもしれない。


「そっか・・・。そうなのかもね。」


俺が曖昧に答えてまた水やりを続けると、チラリと見た小夜香ちゃんの表情は何かを考え込んでいるようだった。


「その・・・薫さんはおうちが近所の人?」


「いや?遠くはないけど、近所ではないね。どうして?」


「ん~・・・そっか、ううん、何でもない。」


誤魔化すように笑う彼女は、一度家の中に戻って、小さめのじょうろを持ってまたやってきた。


「私こっちで手伝うね。」


そう言いながら水をくみだす小夜香ちゃんを見ながら、俺は薫のことを思い返した。


そういや、何でわざわざあの公園を指定したんだろう。

電車で来てるんだから、駅前近くで人が少ない所でもいいはずなのに。

わざわざ俺の家の近所の公園って不自然かもな・・・。

別に幼少期俺が遊んでいた馴染みある場所ってわけでもないし・・・。


「ね、小夜香ちゃん、薫が何で俺に好意があるって気付いたか、もうちょっと教えてくれない?」


じょうろの水を使い切ってそう尋ねると、小夜香ちゃんは水を止めながら俺を見上げた。


「ん~・・・なんていうか・・・変な言い方になっちゃうかもしれないけど・・・。昔、友達と下校中にその子の彼氏と遭遇してね、その時彼氏さん偶然元カノさんと話してたところだったの。別に修羅場ってわけじゃなくて、すぐにじゃあね~って元カノさんは帰ったんだけど・・・、その時なんて言うか、嫌な感じではなかったんだけど、今の彼女である友達に、ニッコリして帰って行ったのね。それがなんか、愛想がいいっていうそれじゃなくて・・・まるで、『私の方があんたより彼のこと知ってるんだからね』って言ってる感じがしたの。友達も同じように感じたみたいで・・・。」


「・・・つまりそれを・・・小夜香ちゃんは薫に対しても感じたってこと・・・?」


「ん~・・・別に微笑みかけられたわけでもないし、目を合わせて挨拶したわけでもないけど・・・何となくそんな雰囲気だったなぁって。でも別に本人はそんなつもりないと思うよ?」


小夜香ちゃんにそれを聞いて、今の薫ならそんな空気を出してなかったとも言い切れないな、と思った。

小夜香ちゃんをけん制する意図はわからないけど・・・。


「ていうか、薫は男だからね?勘違いしないでね。」


俺がそう言うと、小夜香ちゃんは不思議そうに首を傾げた。


「・・・わかってるよ?咲夜くんは・・・男の子だと好きにならないの?」


小夜香ちゃんがそんな問いかけをするのが意外で、俺は思わず拍子抜けした。


「い、いや・・・どうだろうね。今のところ好きになったことはないよ。・・・小夜香ちゃんは女の子を好きになったことある?」


俺は小夜香ちゃんの新しい一面を知りたくなって、水やりを放棄してそう続けた。


「私は~恋愛自体が初心者だから、友達として大事な子はいるけど、ドキドキしたり、もっと一緒にいたい!とか強く思う女の子はいないかな。」


じゃあ・・・と俺はじょうろを水場に置いて、小夜香ちゃんの側に寄った。


「俺に対する小夜香ちゃんの気持ちは・・・家族愛?」


少しぎこちなく微笑みかけると、小夜香ちゃんは俺の目を見た後パッとその視線を逸らせた。


「・・・わかんない・・・。」


「あ、ごめん・・・昨日返事聞くつもりない、って言ったのに・・・。」


俺がそう言って、蛇口をひねってまた水を出すと、小夜香ちゃんは明るい声で言った。


「裏は植物ないみたいだから、後はお願いしていい?」


「ああ・・・うん。わかった。」


まだ話したかったな、と思いながら家に入る小夜香ちゃんの背中を見送った。


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