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失った記憶・エブリン視点

 


 スティーブン様の件は、私の両親が随分前から侯爵家に婚約解消を願い出ていたそうだが、複雑な事情が絡み、交渉が難航していたそうだ。

 でも私の心が壊れた事で、早急に婚約破棄が行われた。

 両親がもっと早く婚約を解消していればと、何度も私に涙ながらに謝罪していたけれど、私にはそれすら何も感じなくなっていた。

 ただじっとその光景を見ているだけの私に、両親は更に涙を流した。


 私はその光景がまるでひとつの悲劇のように感じた。

 どうして両親が泣いているのかは、最後まで分からなかったけど。


 次の日、目覚めた私は全ての記憶を失っていた。

 全てと言っても元婚約者と、王都での生活に関する事柄だけだったみたいだけど。


 記憶を無くした事で、忌まわしい思い出しかない王都から離れようと怒り狂う両親の提案に、私は静かに頷いた。

 どうして今まで王都に居続けたのか、何も思い出せなかったからだ。

 今の私には王都に固執する理由や目的もない。

 早々に王都を離れ両親と共に辺境にある屋敷へと戻った。


 両親と共に辺境の屋敷に帰ってくると、その場にいたみんなが温かく迎えてくれた。

 もうずっと辺境には帰ってきていなかったと聞いていたけれど、私には出迎えてくれる人たちがいるのだと知り、何故だか涙がこぼれた。


 幸い王都で暮らしていた頃の記憶は全くなかったから、少しずつ辺境の生活に馴染むことも出来た。

 新しい私として辺境で生活を始めてから二ヶ月、自室でお茶をしていると何やら慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「どうしたんでしょうか……確認して参りますのでお嬢様はこちらに……」


 侍女のマーサが言い終わらないうちに勢いよく自室の扉が開き、その先には見知らぬ男性が肩で息をしながら立っていた。

 何事かと思ったが、よく見ると随分と薄汚れてはいたが、上等な服装なので一瞬父の客人かと思った。


 見知らぬ男が突然部屋を訪れてきても、壊れた私の心は何の反応も示さない。

 見覚えのない、ましてや家族でもない男がノックもせず部屋の扉を開けて強引に部屋に入ってこようとしていても。今の私には、何も感じなかった。


 不審な男をじっと見ていると、男に追いついた執事や騎士たちが羽交締めにし床に押さえ付けるが、男はもがき手を伸ばしてこちらに来ようとしている。

 座ったまま動かない私の前に、マーサが立ち塞がりこれ以上近づかせまいと、全身で私を守っていた。

 そして、マーサが一歩踏み出そうとした瞬間、 部屋に押し入ってきた男が、私の名前を突然叫んだ。


「エブリンっ!!」

 

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