No.005 PC部のお花見
体験入部生に開始5分で逃げられるという失態を犯した私たち。そんなPC部は今日、花見をしに学校から近くの公園へとやってきていた。きっかけはぶちょーの。
「花より団子とか言うけど、本当にそうなのかね~」
という一言だった。
……そして。
「俺は断然花だな! カメたんを含めたこの美少女フィギュアと言う名の華の方が食事などより美しいに決まっているではないかっ!
このマスター先輩の一言により、PC部内では論争が巻き起こった。
「美少女フィギュアだけが華じゃないぞマスター! この〇ンプラも華に数えていいはずだ! この人型ボディ、銃口! ロマンも華だ!」
「世の中はSとMが一番美しいっ……!」
「花なんてただそこら辺に咲いているだけじゃないですか。キレイかどうかはおいておいて何もできない。呼吸と光合成しか出来ないんです。人間だって同じ……」
「……どうせ俺なんて」
「華と言えば城だってそうですよ先輩! 姫路城は別名白鷺城とも呼ばれるくらいきれいで……」
私はあえてその議論に参加することはなかった。興味があって語りたいと言えば語りたい。
だけど私は先輩方のも、ぶちょーが言っているのも一つの華だと思ったから。茶下のは納得できないし、赤坂はまたネガティブモードだし……須々木君はまた暗い……。
そんなことをギャーギャー言ってる間に、今日も栄養ドリンクにハイボールを紛れ込ませて持ってきた須岡先生が入室してきて、私に議論のことの発端を聞いて来た。
「…………ということなんですけど」
「なるほどぉ」
よくわかった、というような表情を見せた須岡先生。よくわかったね……。
とにかく、須岡先生はそのまま持ってきたハイボールを見つめ、白衣のポケットにしまって。
「今度、皆で花見でもやろうか」
と言ったのだった。
〇 〇 〇
というわけで、花見をしに来たわけだけど……。動機が完全に意味不明だぁ……。どうすんのこれ。
こういうことには比較的詳しいファイター先輩の指示に従って、場所取りをしてブルーシートを広げておく係が3名、須岡先生含めた残りが駅前まで買い出しに行くことになった。
当然私は駅前まで行く体力なんて持ち合わせてないから場所取りの方に志願した。
斜面になっておらず、根っこなどの凹凸のない場所を選び、ブルーシートを広げて、四隅を固定したら完成。あとは桜を見て待つだけになった。
……一方、買い出し組はと言うと。
「ダメだダメだダメだ! やはりここは王道で唐揚げを買うべきだろうがっ!」
「しょっぱい系だけでなくフルーツも買っていきましょうよ」
「……あと鞭も買っていく」
総菜に何を買うかで揉めていた。
〇 〇 〇
1時間30分後。買い出し隊が色々な総菜をもって帰還した。駅からここまで少しは距離があるけど……ここまでかかるとは思わなかった。
さてさて、何を買ってきてのかな……。
「唐揚げ、焼きそば、総菜セット、ジュース、お茶、甘いお菓子、ラノベ、ラノベ、ゲーセンの景品のフィギュア、ラノベ、フィギュア、美味しい棒、フィギュア、USBメモリー、あたりめ、燻製チーズ(お徳用パック)、人気アニメのドラマCD……?」
「いや~、良い買い物だった」
「駅前の書店屋さん、わかってましたねぇ……まさか我々が好きなラノベをピンポイントで取り揃えているとは……!」
「これからは3駅先のデパートの書店に行かずに済みそうだな」
……いえいえ、皆さん。今回花見だよね? なんでアニメグッズがてんこもりなの……?
「「「華を買ってきたまで!」」」
「桜見るからお花見だよね!?」
「違うっ !違うぞ!」
「尊い華を見るからお花見なのだよ!」
絶対違うと思う……。とはいえ……この小説、私の好きなシリーズの読んだことのないやつ! ダメだ、うん! 先輩の言う通り! 須岡先生は既にビール飲みながらスモークチーズ食べてるし! 自由にしていいんだよね!
結局、私たちは桜を見ずに、二次元の華を見るお花見を桜の木の下で行う変な集団と化してしまった。
〇 〇 〇
「大川君、今日は大活躍だったじゃないか!」
「投げては5回からの登板で毎回一奪三振の四三振! 被安打4で自責点は1! 打っては3打数1安打2打点!」
「決勝打の犠牲フライは渋かったなぁ!」
「い、いえいえ……またお役に立てなのなら何より……」
「次は捕手やってみるかね!」
「外野、一塁手、遊撃手、中継ぎ投手と経験も積んでるし! いいよね、山下さん」
公園にある野球場で行われていた草野球の試合が終わったころ、私たちもそれを合図に片づけを始めていた。
結局、オタク方面の話題で盛り上がったり、先輩たちの進路の話聞いたり、須岡先生が泥酔して若干パニックになったりしたけど、楽しかった。
「次はみんなで海でも行くかね」
というファイター先輩。海……家族で海水浴に行く以外にまず行ったことはないなぁ。
「あ、でも私は海外の短期留学行くからみんなとはいけないかなぁ」
思い出した。この学校、夏休みに3週間くらい海外留学をするプログラムがあるんだ。それに今年参加するって決めていたんだった。
それを言った瞬間にファイター&マスター先輩のテンションが急激に落ちてしまった。もしかしなくても、また私に何かコスプレさせるつもりだったらしい。
「もしみんなと行ったとしても変なコスプレしませんよ。文化祭でもないんだし」
「……チッ! バレたか!」
見え見えだとわかり分かりやすく舌打ちする先輩たち。……私に一体何をさせるつもりだったんだろう……。
「今日は寄っていくだろう? 何か奢るよ!」
「い、いえ。同居してる従妹が待ってますから」
「まあまあ、そういわず! なんだったらその従妹も呼んでいいから」
「ははは……」
目の前を歩く草野球の試合帰りの集団は、今日大活躍だったらしい一人の男性を飲み会に誘っているらしく、誘われている人は少し困っていた。後ろ姿や声から、その人がまだ私たちと年が近いことがなんとなくだけれどわかる。
「ん? あー、あの前の集団に居る背番号15番、確かこの前電車の中で見たな。俺らの学校の制服着てたからうちの学校の生徒だろ」
「おっさん揃いの草野球とはいえ、あの投げっぷりは面白かったな。球は全然速くないのに何故か打ち取れてるんだもんな」
マスター先輩とファイター先輩は時々草野球の方見てたなぁ。だからなんか話題に出来るらしいけど、私たちがついて行けるのはその背番号15の人がうちの学校の生徒ってこと。
「坊主頭じゃないからまだ野球部とかに入ってないんじゃね?」
「確かソフトボール部もあったなうちは。弱小中の弱小だけど」
そんな会話をしていると、たまたまこっちを振り返った背番号15番の人と私の目が合った。少し茶色の髪と青い瞳の少年……多分高校生だと思う。顔つきは日本人っぽいけど、少し英語圏の血も含まれてそう……ハーフなのかな?
私とその人の目が合ったのはほとんど一瞬で、彼の方から目を逸らしチームメイトの誘いを断るのに意識を集中させていた。
……私もこれ以上気にはしなかったけど……まさかその人が私と同じ留学プログラムに参加して、PC部に入り、文化祭で苦労を共にして、異世界転移までするなんて……今はまだ、そんなこと想像すらできなかった。
おまけー登場人物プチ紹介ー
・ぶちょー 眼鏡が怪しく光る中学3年。ブレザーではなく白衣を着ている。別名かちょー。
・茶下 ドMが主、だけどSMどっちもいける変人。プログラムの腕はいい。
・須々木君 闇と病みのテイオー。とっても暗い。人生経験では後輩とは思えない。
・マスター 先輩の1人。背の低いわがままボディ(笑)の方。ケモミミさいこー。
・ファイター 先輩の1人。背が高いわがままボディ(笑)の方。メカとツンデレさいこー。
・須岡先生 PC部顧問。学校に酒を持ってくるほどカオス。PC部を変人だらけにした元凶。