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No.004 PC部の日常

※本編を読む前に必ずお読みください。


この物語は、とある学校のPC部に所属する者たちのカオスな日常を描いたものです。過度の期待はしないでください。また、読むときは部屋を明るくしていかにカオスかを味わってみやがってください。

 これはまだ、転移前。赤坂雄一と新田明里が中学3年生になったころのお話……。


 新年度、新学期。

 4月の爽やかな風は都会のビルの隙間からでも感じることが出来る季節。

 誰がどうして1月ではなく4月を新年度の始まりにしたのかはわからない。分かりたくもないけど……。

 とにかく、3月の春休み開始から2週間。憂鬱な新学期が始まってしまった。

 中学3年は義務教育なる期間の最後の年。今ではそれが当たり前になった高校入学試験が待っている受験生。しかし、通っているのは私立の中高一貫校。住んでいる埼玉からはちょっと遠いけど東京の発展しすぎた地下鉄網を使って通える。

 内部進学をする人がほとんどだからこそ、当然うかれる“ヤツ”もいるわけで……。


「お前……どうした」


 今朝、駅で偶々見つけた元クラスメイトの“ヤツ”の服は明らかに装飾過多であった。


「なんだよこのジャラジャラ……」

「ああ、ワイハーで買ってきた」

「そのピアスは……」

「ああ、それは大阪で」

「こっちの妙に着飾ったラケットは……」

「ああ、城崎温泉で買ってきた」


 去年のクラスでかなりはっちゃけていたチャラ男は、とうとう夏休みデビューならぬ新年度デビューをしてしまったのである。

 対して俺は何にも変わらない。むしろ自信がなくなりかけているわけで……。


「お前、なんかちょっと地味くね~?」

「はぁ……どうせ俺なんて」


 地味で浮かれることもなく、陰キャのまんまですよ。


  〇 〇 〇


 桜舞い散るキャンパス内の通路を窓から一望できる5階の特別教室棟。何故か中学棟から離れたところに位置する部室に俺はやってきた。

 全く……あのアフロ教師め! HRホームルーム長いんだよ! 自分でダジャレ言って自分でウケてたし……。仲良しの奴なんていないし。はぁ……。

 しかも始業式が20分程度って……やる意味あるのだろうか。

 とにかく、担任になったハイテンションアフロ教師の終礼が遅いせいで他のメンバーよりも10分ほど遅くここにやってきた。


「ん、赤坂が来た」

「遅くなったぞーっと」


 部室……何故か情報の授業が行われる第2PC室を勝手に占拠して色々なアニメグッズやフィギュアが散見される場所に入ると、本来は教員用のPCの前に座るぶちょーを発見、あちらから声をかけて来る。


 俺が所属するPC部は中学3年が俺を含めて5名、高校3年が2名、そして中学2年が1名。その他幽霊部員多数という構成だ。

 ちなみに、幽霊部員もカウントして予算申請を行っているという黒い部分がある。


「ん? 先輩方はどうした? あと須岡先生」


 いつもならフィギュアを見て「グへへへへ……このラインがまたいい」とか「フヘへへへ……ケモミミさいこーだなぁ」とか言っている濃い人々が居ない。それといつもなら教員用のPCの前でギャルゲーをしながらプログラミングをするカオスな須岡先生も居ない。気になったので聞けば、ぶちょーが明らかに目をそらす。


「おいかちょー、正直に答えろ」

「課長じゃない、ぶ・ちょ・う!」


 常に光を反射する不気味な眼鏡を付けているぶちょーは相変わらずの伝統芸能を披露する。何年目だこれやるの。


「それで、実際どうなった」

「それは……」


 スッと目をそらすぶちょー。これはその……なにがあった?


「正直に言えばいいじゃん。さっき先輩たちがサイト開いたら今日秋葉原であのゲームの新作の予約が始まったって書いてあって……。しかも限定モデルで限定特典もつくらしいから……」

「それで?」

「それで、「うおおおおお!今夜は祭りじゃああああ」って言って部室から飛び出していったよ? むふふー、ついでに私の分の予約も頼んでおいちゃった。あ、須岡先生は職員会議だよ」


 と語るのは新田明里。この部活動唯一の女子部員。あの先輩方にドン引きせずに話しかけられる唯一の存在にして学年1位の頭の良さを持つ。しかしその正体は抜け目のないオタクである。


「なんで先輩たちに頼んだんだよ……一緒に行けばいいじゃん」

「一緒にアキバ行くと絶対にコスプレさせられるし、それに予約は少人数の方が効率良いらしいし」


 ああ……あんなに図体はでかいのに効率重視なのか。あのゲームは大人気だからこれは当分帰ってこないな。


「すぐ帰ってくると思う」


 というストイックな返事を返したのは茶下。SとMどっちもいける口だとか。先輩方とはまた違う変態の1枠である。口数は少ない。そしてポーカーフェイス。注射が大好き。


「どうしてそう言える?」

「「オタクで引きこもりでオタクで不登校の友人が既に先発隊として出陣済みだッ!」って言ってた」


 ああ……つまり同じオタクの御友人が既に並んでいらっしゃると。しかも不登校の。あの人たちは全く。いや、PC部であの人たちよりも技術力のある人とか居ないけど。

 VRゲーム作ったり、機器弄ったり、ギャルゲーを自分で作って遊んだり、足でゲームしながらフィギュア作ったり。

 かなりぽっちゃ……わがままボディ(笑)なのに行動がとてつもなく素早く工学系にも精通している。ぶっちゃけ入る高校を間違えたんじゃないかと思っている。


「ああ、それと今日中2で体験に来る人いるから」


 というぶちょー。幽霊部員が多くレギュラーが少ないこの部活に体験にやってくるとは……度胸がある。


「言われた通り誘っておきましたけど……すぐに逃げ出すと思いますよ」


 というコメントを残して画面に向かったのはレギュラーメンバー唯一の中2、そして闇と病みの帝王こと須々木。スイッチが入ると闇を見せまるで人生を悟ったかのように病み発言をする。ぶっちゃけて怖い。あと新田のマシンガントークを完璧にコピーする。


「須々木君、どうして?」

「だって……この世界で我々から逃げなかった一般人が居ますか?」


 ……やばい、否定が出来ない。何にも言えない。クラス内で孤立している俺たちだ、どう言われても何にも言えないのだ。


「う……」

「だいたい人間なんてそんなものなんですよ。己の私欲のためにすべてを使い果たすんです。この地球と言う惑星の支配権を握り、さらにこの地球と言う一世界を統一しようとするまで強欲貪欲……」


 くっら! いつもよりも1割増しで暗いよ! っていうか、君は本当に俺たちより一学年したなんか……? それとも俺が何もできないだけ?


 ……ああ、そうか。俺って確かに何もできないよな……英語とか、英語とか、英語とか……運動とか。ハハッ、どうせ、どうせ俺なんて……俺なんて碌な人間じゃないんだ。


「……か! 赤坂! あーあ、また“ネガティブモード”になっちゃったよ……どーする、かちょー?」

「新田! 課長じゃない、ぶ・ちょ・う!」

「相変わらずで安心したよ。それで、どうする?」

「ほっとけ。そのうち直る。それよりもさっさと新作のデバックをするぞ。新歓までにEWOのVR版テストプレイが出来るようにするんだ」


 ……俺なんて。どうせ俺なんて……。


  〇 〇 〇 ―赤坂再起不能のため、急遽新田sideへー


「どうせ俺なんて……」


 赤坂のワールド展開、所謂“ネガティブモード(ぶちょー命名)”に入った赤坂を茶下とぶちょーが隅に運ん……そこゴミ箱! 赤坂を掃除しない!


「いや、邪魔だし。そこの竜騎士ルータドンのフィギュアも邪魔になってきたなぁ……持ち帰るか」

「そんなこと言ったらウルトラグレードのデン〇ロビウムでしょ。3mあるんだよ! 3m!」

「しょうがないだろ、追加ユニットは正義なんだから。それに先輩作だし。大体どうやって持ち帰るんだよこれ。発泡スチロールで上手くするしかねーじゃん」

「……だったらそれこそそこのカメたんを持ち帰るべき」

「茶下! 鬼畜だぞお前!」


 うん、カメたんはダメ。可愛いから。部室に置いておくべき。というか、この部室、本当にフィギュアとかプラモデル多いから掃除大変なんだよなぁ……壊れないように細心の注意を払わないとだし。そろそろ本当に部室の一角を占めてるデ〇ドロビウム持ち帰ってよ……かっこいいけど邪魔なんだもん。3mあるし。なんでもモ〇ルアーマーばっかあるの?

 ネオジオ〇グとか、GNアー〇ーとか。


「ダメだ茶下! それこそ江洲岡鞭夫とエムを取っぱらべきだ! 鞭の部分が空けばUSB置き場を新造できる!」

「……SとMなんだ、素晴らしいから却下」

「いっそのこと、全部壊すのはどうです?」

「「「須々木、それこそ絶対ダメ!」」」


 部室の整理整頓で揉めていた時、部室のドアがコンコン、と音を鳴らす。多分体験入部の子が来たのだろう。


「……怖がらせないように私が行くよ。少なくともぶちょーよりはマシでしょ?」

「どういう意味かは後で聴くとして……そうだな、ぜひともここは予算の関係も含めてゲットしておきたい。確実に行くぞ」


 光を反射する眼鏡を不気味にキュピーン!と光らせるぶちょーは、茶下にヘッドロックをキメながら指示を出してくる。一方の茶下は「ああ、イイ! イイぞ! その締め具合、流石はぶちょーだっ!」と言っている……。教育に悪いからほどいてあげて。


 この部活、本性があれなので怯えさせないようになるべく優しく接しようと心に決め部室のドアを開けると、身長が150はないくらいの男子生徒が立っていた。


「こんにちは。体験入部の子かな?」

「え……えと、はい! 自分、もぶおかって言います。漢字で書くと……茂部岡です」

「茂部岡君ね……わかった。とりあえず部室入って……やること教えるから」

「は、はいっす!」


 なんか私の顔見てそのまま固まってたけどまあいいや。ひとまず茂部岡君を部室内に入れて、私の近くの席に座らせる。

 それを見越してか、ぶちょーが気取った口調と話し方でやってきた。あの~、ぶちょー……マッドサイエンティストがこれから怖い実験をするような雰囲気なんですけど。


「やあやあ体験入部生君。私がぶちょーだ。これから、君へのミッションを伝えよう。まずは、このPCの電源を入れて、アカウントを入力するのだ。君用のアカウントはこれだ……その後は音声ガイダンスに従ってくれたまえ。ルーキーのするべきことが、書かれている……わからないところはそこの新田に聞きたまえ」

「は、はい!」


 ……音声ガイダンスって、確か去年に私が先輩方の言われるがままに茶下とアフレコしたアレだよね? 実際に聞いたことないけど……。


「というか、須岡先生遅いね~……まだ来ないの?」

「職員会議で予算を増やすように仕向けてもらった」


 茶下……抜かりない。流石は会計の鬼。じゃあ、とりあえず……あれ?


「……て。どうせ……て。どうせ俺……んて……どうせ俺なんて」


 ゴミ箱の方面からかすかにだけど赤坂のダークオーラと呪文が聞こえる!?


「あ、あの~……ゴミ箱の方面からなんか変な声が聞こえるんですが……」

 

 どうやらそのことに気付いたらしい茂部岡君が私に申し出てきた。うん……あれはうちの部員がふさぎ込んでるだけです。


「ま、まずこっちに集中して? 序盤を良く見ればあとは簡単だから」

「は……はぁ……」


 いまいち腑に落ちなさそうな茂部岡君。なんとかごまかして集中させる。少しだけヘッドホンの音量上げたから大丈夫……。


 なんて思ってたら、今度は部室のドアがガチャっと空いて、白衣をまとった女性教師が入ってきた。……須岡先生、この部活の顧問だ。


「やあやあ君たち、EWOの方はどうなってるかなぁ?」

「あ、はい。新田に体験入部生の相手任せて、手分けしてデバックやってます」

「そうかいそうかい。なら、差し入れにレッ〇ブル用意したから。グレードはいつもので申し訳ないけど」


 ……須岡先生! また学校にレッド〇ル持ってきたんですか! ちなみに、レ〇ドブルを持ってきているという事は缶ビールも学校に持ち込んできているという事。これは……ギャルゲーしながら飲酒コースだ。


 どんどんいつもの雰囲気になってくる部室。やはりこんな人々に囲まれては茂部岡君も不安になるらしく……。


「あ、あのちょっとトイレに……」

「あ、うん。行ってらっしゃい」


 外の空気を吸いたいのか、茂部岡君は席を立ってドアに向かう。

 ……その音をきっかけに、とうとう私たちの本性が現れる。


 トリガーになったのは、茶下のこの一言だった。


「グルーガンで肌と肌をくっつけて引っ剥がせば快感を得られそう……」

「え?」


 その一言に茂部岡君が引く。それと同時に……。


「さぁて、昨日はどのルートに進んでたっけぇ?」

「とりあえずだな、グルーガンじゃなくて王道の鞭もって誰か叩いてくれる人を探せ」

「いいんですよ、人間痛みを知れば知るほど快感を得ることがあるんです。要は慣れなんです……人間なんて、痛みも、殺しも慣れれば問題ないんです……」

「どうせ俺なんて、どうせ俺なんて、どうせ俺なんて、どうせ俺なんて、どうせ俺なんて、どうせ俺なんて」

「ひっ……!」


 一気にいつものムードになった部室。私たち以外を一切近づけない独特の雰囲気・空気が部室に充満する。

 一般人にとってもはやそれは劇薬なそれは……茂部岡君が逃げるには十分な証拠だった。


「う……うわあああああ!」


 悲鳴を上げながら走る茂部岡君は、ドアを開けた瞬間に誰かとぶつかった。


「ん?」

「「え?」」


 そこには、どこからともなく現れた二つの着ぐるみだった。着ぐるみの手には数々の新作コミックスにプラも・フィギュアがどっさり。あ、その漫画! それは私が頼んでたやつ!

 プリーズ ! ヘイ、パスミー!


「どうしたんだこいつ」

「おいマスター……それよりもまずこのミー〇ィアを組み立てることだろう」

「ファイター、それは違う、まずはこの神書たちを読み漁ることからだ」

「ファイター先輩、まずはその本をプリーズ! プリーズミー!」

「どうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんてどうせ俺なんて」

「はああ!? そこで好感度落ちるな! ポンコツぅ!」

「人生なんて暗くて当然なんですよ……」

「こっの世は~→俺の~↑ために~↑あ~↓る~↑♪」


 ………………。


「う、うわああああああああああああああああああああ!」


 最期に、茂部岡君は奇声を放って廊下に消えて行き。


 中学2年では「PC部に近づくなかれ」という教訓が出来たらしい。


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