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第一章第2話『冒険の夜明け』

「ニーマ教皇……猊下が……?」


 余りにも馴染みのない単語に反射的に聞き返してしまう。

 しかし、この国に置いて、その名前に聞き覚えが無い事等有り得ない。

 だからこそ、その単語が出てくることに疑問を抱いてしまう。


 ニーマ教皇猊下。この国の最高権力者にして、リヒト教の首長である。そんな存在が自分に興味を持つ。それがどういう意図があっての事なのだろうか。

 そんな、答えの出ない迷路の中をグルグルと回るような思索は、野太い声に遮られた。


「ガハハ!!!全く今日はいい日だな!!!

ん?おう!カルキ!帰ってきたか!!いや〜お前にいい知らせがあるんだよ!!お前は明日から聖都で暮らすことになるんだぜ!!生意気ったらありゃしねぇなぁ!!」


 酒臭い息で豪快な笑い声を響かせるのは、この孤児院の院長であるガイル・アーキンスである。とはいえ、院長とは名ばかりの国から資金を貰い、部屋を提供しているだけの男である。ガイルは近くの椅子にどっかりと腰を下ろすと、


「さっきノイ司祭に届いたんだよ。ほら、教皇庁からの手紙だ。カルキ、何が入ってたと思う?」


「……分かりません。」


「お前は大事なお子さんだろうからってよ。預かるにあたって相応の謝礼が出てな。堪んねぇよなぁ!!聖紋が出ねぇから働きにも出せない、とんだ穀潰しかと思ってたが、金の卵だったとはな!ガハハハハハハ」


 院長の下卑た笑い声には慣れたが、やはり疎まれていたという事実を知り、少しだけ胸が痛む。

 そんな僕を気遣ってか、ノイ司祭は耳打ちする。


「ごめんね。本当は君の路銀なんだけど、院長先生に見つかっちゃって、謝礼だと思われちゃってね。情けない話なんだけど、このままじゃ君に悪いから。」


 そう言って半銅貨3枚をこっそりと、僕の手に握らせる。


「少ないけど、好きに使って欲しい。せっかく聖都に行くんだから。色々楽しんでね。」


 へそくりだったんだけどね。と、舌を出すノイ司祭に涙目で感謝の意を伝え、カルキは急いで荷物の支度にかかった。




 ここルーテ村は隣国との国境沿い、城壁の麓にある貧しい村である。

 しかしながら、国境沿いにあるという事もあり、この孤児院にはそれなりに子供達が溢れている。


「にーちゃん!どっか行くのかー?」

「お土産買って来てね!!」

「明日の晩御飯までには帰ってくるんだよー?」


 自分達の部屋に戻り、荷造りをしていると色々と目立っていたのか子供達に囲まれる。

 小さい頃から一緒に育った家族同然の皆の顔を見ると、明日からの生活に感じる不安も軽減される。


「うん。お兄ちゃん明日から少しだけ遠くの街に行ってくるからね。ちゃんとお土産も買ってくるよ。さ、そろそろ寝る時間だ。皆良い子だから寝ようね〜」


「ねぇ、兄ちゃん」


 眠る様に小さい子達に促していると、1人の男の子が声をかけて来た。

 彼女はグリム。この孤児院では、僕に次いでの年長者であり、しっかり者のお兄さんとして、子供達を纏めてくれている。


「兄ちゃんさ、多分直ぐには帰ってこないんだろ?」


 鋭い質問にドキリとする。なるべく平静を装ったつもりだったが、グリムは続けて


「さっき院長とノイ司祭が話してるのを聞いてたんだ。兄ちゃんまた聖紋が出なかったから、首都に行って調べてもらうって。首都はそこまで遠くは無いだろうけど、いつ帰れるか分からないって。そう言ってた。」


 それで心配してくれたのか。なら、安心させてあげなければ。

 そんな考えは続く言葉で吹き飛んだ。


「だから、明日からは俺が皆を寝かせるから!兄ちゃんは安心して、行ってきていいからな!!」


 言葉が出なかった。

 安心させてあげる?とんでもない。この子は僕の心配を消す為に覚悟を決めたのだ。なら、僕もそれに応えなければならない。


「あぁ、皆の事任せたよ!」


 そうして、おでこを擦り付けて笑い合う。グリムがいれば、きっと小さい子達は皆仲良くやって行けるだろう。でも、



「僕は皆が居ない場所で寝れるのかなぁ……」


 そんな事を考えながら、カルキは意識を手放した。




 翌朝は、いつもより早く目が覚めた。

 まとめた荷物を背中に背負い、誰も起こさないようそーっと裏口の扉を開けて、外に出る。

 朝は少し肌寒いが、慣れたものだ。孤児院では、暖炉に使う薪割りや水汲みなどをしていた為、朝早く起きる事には抵抗がない。


「とはいえ、少し眠いなぁ……」


 目を擦りながら歩いていると、前方に教会と、門の前に止まった馬車が見えてくる。

 さらに近づくと、見知った顔のノイ司祭もこちらに気づいたようだ。

 

 少しだけ、気が早くなり走って近づいたカルキを待っていたのは


「貴様が件の少年か」


 突きつけられた剣と、氷の様な声だった。

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